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カコミライ
【大人 恋愛小説】

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カコミライ (4)今の私-4



 外に出ると、頬を刺すような冷たい風が吹いていた。マフラーに顔をうずめて、寒さをやり過ごす。

 腕時計に視線を落とすと、約束の時間まであと少し。もうすぐ海はやってくる。美嘉さんに会いに―――

 電話の時に時間をズラして海をカフェに誘って欲しいと頼むと、美嘉さんはすんなりと了承してくれた。

「失恋をしに行きます」

 そう宣言した私の右手を美嘉さんは柔らかく包んでくれた。その右手は、この凍えるような寒さの中でもじんわりと熱を帯びたように暖かい。

 結局最後まで「ごめんなさい」を受け取ってくれなかった。「ありがとうございます」と礼を述べると顔をほころばせてくれた。




「海」

 雑多な人混みの中、現れた人影の名を呼ぶ。

「香子ちゃん?」

 私の姿に気付くと、海は目を何度か瞬かせた。きっと驚いたことだろう。海は今日、このカフェで美嘉さんと約束をしているつもりで来たのだから。

「海」

「うん?」

「好き」

「へ?」

「私、海のこと好き」

 飴玉を転がすように口の中で持て余していた言葉は、ようやく外へ出すことが出来た。出た瞬間に消えてしまうのだけれど。

 けれど、やっと言えた。
 自覚してまだそんなに経たないけれど、そう思う。胸の奥に隠してくすぶっていた思いは、一度自覚しまえば溢れてしまいそうなくらいに私の心を大きく占めていたのだ。

 海は一瞬だけ驚いた顔をして、それから真面目な顔つきに変わる。

「ご、――」

「勿論分かってるから!」

 海の返事を遮って、叫ぶように放った言葉はびりびりと耳に響いた。
 きっとこれは海へではない、自分自身に向けたのだ。

「勿論分かってる。海は美嘉さん一筋だもんね。そんなの今までで十分、分かってたよ。だけど伝えたかったの。諦めるよ。今までのことも忘れる。諦めるから」

 何度も繰り返す。そうやって自分に言い聞かせる。
 海は眉を下げて悲しげな表情をしている。

「困らせてばっかりでごめんね。もう一つだけ言わせて」

 最後に一つだけ叶わない我が儘を。
 それでちゃんと終わりにしよう。


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