カコミライ (4)今の私-2
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斯くして数日後の休日。私と美嘉さんは、カフェで再び向かい合うことになった。
「なんだか雰囲気が違いますね」
挨拶を交わした後、真っ先に思ったのはそれだった。前に此処で会った時には、黒を基調としたシックな服装だったのに、今日の美嘉さんの格好は色彩の綺麗なワンピースにオフホワイトのコートを羽織っている。勿論どちらも似合っているのだけれど、何だかそのギャップに驚いてしまう。
「あーこれはね」
悪戯がバレたような口振りだった。
「本当はね。海君の相手にすごく嫉妬してたのよ」
「え?」
「香子さんが電話に出た時も、一瞬頭に血が上って。それから負けるもんかって必死に冷静ぶったのよ」
バレなかった?と訊かれ、首を振る。全く気づかなかった。
「会うときも普段着ないような落ち着いた服装選んで、余裕のある風を演じて。内心は、言い負かして海君にもう会わせないようにしてやるって燃えてた」
「演技だなんて、全くわかりませんでした」
「女優になれるかしら?」
「なれますよ。だって見事に騙されましたもん」
散々動揺したのも、美嘉さんの掌で転がされていたなんて。ここまで見事に手中に嵌れば、怒りなんか少しも湧いてこない。
「あ、でもね。香子さんから声を掛けられて、顔を見たときにはそんなことすっかり頭から飛んでいったのよ」
相手が死んだ彼氏の妹とくれば、頭が真っ白になるのも当たり前だろう。と、驚かせた張本人であるにも関わらず思わず納得してしまう。美嘉さんは続ける。
「あぁそっか、って思った」
「え?」
「気づいたのよ。誰かの行動が誰かを傷つけてしまうのねって。私が海君と付き合うことによって、香子さんを傷つけてしまっていたことをその時理解したの」
「……美嘉さん、そんな」
「でも途中から、やっぱり思ったの」
「何をですか?」
「負けない。海君は渡さないってね」
はっきりと言い切った美嘉さんの表情に浮かぶのは、なんとも不敵な笑みだ。
少ししてチーズケーキがテーブルに並ぶ。一緒に頼んだ紅茶の香りと相まって、美味しそうな匂いが鼻孔をくすぐる。美嘉さんも嬉しそうにしていて、ふと気になった。
「そんなにこのチーズケーキが好きなんですか?」
「あー……それはね」
なんだか歯切れの悪い様子だった。