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彼女は彼女の彼女
【同性愛♀ 官能小説】

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彼女は彼女の彼女-1

「おい、汐見」
級友の佐東(サトウ)チカに声をかけられた時、汐見小百合(シオミサユリ)は自席で本を読んでいた。
月曜日、二限目終わりの十分間の休み時間。
女子校らしく、他の級友達は週末に撮ったプリクラの交換や他愛ないお喋りに花を咲かせている。
そんな彼女達が一斉に小百合の方を向いたのは、無論、チカが声をかけたからに他ならない。
あーあ、汐見の奴、またチカの呼び出し食らってるよ。チカ、今日相当機嫌悪そうだから近付かない方がいいかもね。
そんな潜められた声に気を留めることもなく、チカは小百合の机を叩いた。
「………」
短く切り揃えられた白いマニキュアの目立つ指が、とんとんと苛立たしげに机を叩いている。
「な……んですか」
周りとチカを交互に見やりながら、ぼそぼそと小声で訊く小百合。
金に近いくらいに脱色した短い髪のチカは、スカートも短い。学校指定のネクタイはルーズに緩められており、今時の女子高生といった印象だ。対して小百合は銀フレームの眼鏡に、真っ黒な長い髪を無造作にまとめ、制服もきっちり校則通りに着た地味な生徒であった。深爪に近いくらいの爪には当然、チカのようにマニキュアなど施されていない。
そんな二人は、傍から見れば明らかに「いじめっ子」「いじめられっ子」の関係だった。
だが、チカに逆らう者は誰もいなかった。というよりは、地味で目立たない汐見を庇う者が誰もいないといった方が正しいかもしれない。
「分かってんだろ。昼休み、屋上だからな」
チカの声が妙に大きく教室内に響く。級友達はやれやれと思いながらも、やはり手も口も出すことはなく各々流行の服やら男の話題に戻っていった。


学校の屋上は、基本的に解放されていない。
今此処にいるのはチカと小百合の二人だけだ。
チカの細く整えられた眉が潜められ、形良い唇は忌々しげに歪められた。
「てめぇは、何のつもりなんだよ」
服装も性格も、そして身長も小百合とは対照的なチカは、見上げるように眼鏡の奥の瞳を睨みつける。
「何のつもりって……」
小百合はその腕をゆっくりとチカへ伸ばした。指先が細い顎へ触れる。
思わずびくりと身体を強張らせたチカに、小百合は妖しい笑みを口元に浮かべた。
「ちょっとした、悪戯だったんだけど」
教室にいる時とはまるで違う。口調もその表情も。彼女のこの姿を見たら級友達は何と言うだろうか。
そしてチカは、どうしてもこうなった時の小百合に弱い。そしてたちの悪いことに小百合はそれを知っている。
「だからって、あんな……!」
二限目の国語。退屈な授業を聞きながら、何の気なしにパラパラと教科書を捲っていたチカはその一ページを見るや否や背筋を凍らせた。
「あんまりにもチカがエッチだったから、ハメ撮りしちゃった」
くすりと笑う小百合。チカは顔を真っ赤にし、唇を噛み締めた。
教科書に挟んであったのは、つい一昨日の写真だった。小百合の部屋で小百合の指に喉を仰け反らせるチカの姿。いつの間に撮られたのか、全く気付きもしなかった。
「ふざけるな! あんなの、誰かに見られたらどうすんだ!」
「だから、ほんの悪戯のつもりだったんだってば」
言って、小百合はチカの頬に軽くキスをする。そのまま唇を耳へ持って行くと、チカが身を捩った。
「い、や……!」
「本当に、嫌?」
「だ……って、まだ、昼休み……」
関係ないよ――その言葉は甘く耳朶に響いて、チカはいつものように小百合へと身体を委ねていた。


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