寒い夜の拾い物…最終章-2
それから数ヶ月後の金曜日、健司は仕事帰りに同僚と酒を飲んで、九時過ぎに家に帰ると見慣れない靴を見つけた。
「ただいま、母さん、誰か来てるの?」
「お帰り、夏美の友達よ、ほら、健司も知ってる子よ、美樹ちゃんが来てるの、美樹ちゃん今日泊まるみたいよ」
「えっ?美樹さんが?しかも泊まるの?」
「ええ、そう言ってたわよ、健司、何そんなに驚いてるのよ」
「イヤ…、別に…」
二階に上がり夏美の部屋をノックすると
「何、お母さん?」
と夏美の声がした。
健司がドアを開け中を覗くと
「あらぁ、健司君、お帰りなさい、遅かったわねぇ」
と美樹の元気な声がした。
「たっ、ただいま、…あれっ?美樹さん、祐美ちゃんは」
健司がキョロキョロと部屋を見回すと
「…うっ、うん、…今日はお留守番、私だけお泊まりに来たの」
何故か歯切れの悪い美樹を見て健司が不思議そうにしてると、横から夏美が
「健司、今日は美樹と二人で話しがあるからあんたはもう部屋に戻って寝なさい」
と言いシッシッと手を振り健司を追い出した。
「何だよ、俺は子供か…」
部屋から出てドアを閉める時、振り向いて美樹を見ると
「ゴメンね、健司君」
と手を合わせてウィンクした。
健司は自分の部屋で着替えながら
(何だろ、二人で話しって…、それに美樹さん、祐美ちゃん連れずに泊まりに来るなんて、…もしかして俺との関係を姉ちゃんが気付いて美樹さんと話してるんじゃ…って、それなら俺も入れて三人で話すか…じゃあ何の話しを…)
と考え、どうしても二人の会話が気になり、耳を澄まして隣の部屋の会話を盗み聞きしようとした。
しかし時折
「嘘ぉ…、何で…、本気なの…、どうするの…、もう決めたの?」
と無駄に大きい夏美の声だけが聞こえるだけで、肝心の話しの内容は全く分からなかった。
(そうだ、もしかしたら美樹さん、後で俺の部屋に来るかも…)
そう期待しながら健司はベッドの中で隣の様子を窺っていたが、結局話しは聞こえないし美樹も部屋には来なかった。