旅立ち-9
「渚。ごめん」
それ以上の言葉は出てこなかった。
絵里を追いかけることができない僕には渚を気遣うことしかできない、それなのに、渚に他に掛ける言葉が見つからなかった
そっと渚の肩を抱き寄せる。渚は嫌がることをしなかった。
僕は力の無い腕で渚を抱きしめ、渚の背中をさすりはじめた。
心の中で、渚に謝り続けていた。
あれから数日がたった。絵里に何度か連絡を取ったが、話せる機会を与えられなかった。
あれほどのことをしたのだ。当然だった。それでも僕は、絵里と話をしたいと思う。分かってもらえるとは思わない。ただ、後悔していること。変ろうとしていることを伝えたかった。
あれから渚との関係は変ったようで変らない。二人とも、皆と一緒に毎日バカ騒ぎを繰り返している。特に何を約束したわけでもない。その輪の中なかで、ただ渚は僕の隣にいて、僕も渚の傍を離れなくなった。もうすぐ夜明けだ。海へ出発するまで、少しだけ仮眠をとろう。
「おーい。渚。帰るぞ!」
「うん。」
渚が僕に笑顔をくれる。僕は渚と手を繋ぐと歩き出した。
渚が勇斗にそっと目をやった。あの日から勇斗は変った。いつも私を真直ぐに見つめていてくれる。勇斗は何も言わないけど、私はそれで構わない。勇斗と一緒にいるのが楽しい。私は勇斗が好き。
僕なりに考えた。
悔いは残るが、起きた事実を無くすことなどできはしない。
許されることなどないのだ。
今の僕にできることは、過ちを繰り返さないこと。
本当に大切なものを、間違えないことだと思う。
そして、起こした過ちが大きいだけに、バカみたいに愛してやろう。
とことん愛してやろうと思う。
僕はもう、迷わない。
渚。愛してる!
終