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帰らぬ夏
【フェチ/マニア 官能小説】

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帰らぬ夏-3

 前の母が亡くなったのは、私が小学校6年生のときだ。交通事故だった。いまの母は前の母の高校の同級生だ。当時の女子高も厳しかったらしく、やはり運動部だった二人は髪を伸ばしても怒られて見た目男の子みたいだったとか。
「痛いんだよねえ、ケツバット」
 ある日、いまの母が昔を思い出すようにして言った。
「あれ、お母さんもやられたの?」
 母は当然と言わんばかりに大きくうなずいた。二人は部活だけでなく、アルバイトも一緒に学校の許可を受けずにしていたという。
「私たちの高校は、原則アルバイト禁止でね。ある日それが見つかって、二人とも放課後の職員室に呼び出されたの。ケツバットって言っても実際にはバットじゃなくて、長ーい木の定規なんだけど、みんなケツバットって呼ぶのよね、女子高なのに」
「二人並んでひっぱたかれたの?」
「うーん、一人ずつ。まず女の先生に名前を呼ばれて、罰を受ける理由を説明されて、始末書みたいのにサインさせられるの」
「へえー、犯罪者みたい」
「そう、そんな気持ちになってくるのよ。いまから思えばたかがアルバイトなのに、もう二人ともシュンとなっちゃって。一人5発ずつで、私は後の方を選んだんだけど、待ってる間は恐怖だったわ。お友達がお尻バンバンひっぱたかれるのを目の前で見せられて。今度は私の方が見られる立場になって。最後に二人並ばされて、またお小言を言われて、ごめんなさいしてやっと終わるのよ」
「痛かった?」
 私はちょっと意地悪な笑みを浮かべて母に聞いた。母は少しにはにかんで「うん」とうなずき、間が悪そうにうつむいた。

 試合では思わぬことが起こるものだ。全国大会でも有力校の一角にあがっていたうちの中学は、県大会の決勝で負けた。足の速い子が走塁ミスをし、守備のうまい子がエラーをする。みな茫然としていた。とくにミスをした子はコーチに泣きついてなかなか離れようとしなかった。でも私は決勝もスタメンで使ってもらって、外野を走り回った。自分的には悔いはなかった。コーチも笑顔でねぎらってくれた。
「お母さん、負けちゃったよ」
「でもN子はよく頑張ったよ」
「ううん、まだまだだよ。まだまだ続けるよ、あたし」
 高等部になれば監督は替わるけどコーチはいまのコーチだ。中等部からの生え抜き組はより厳しくしごかれるだろう。でも私は、コーチを信頼している。たとえいくら厳しくお尻をぶたれても。いまの母には黙っているけど、亡くなった前の母の面影を私はコーチに見ていたのかもしれない。


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