A silent drizzle-6
──私……。
自分を指す手話をしたところで、彩希は腕を下ろした。なにか言おうとして、そしてそれを止めたようだった。
彩希は、しっかりとぼくのほうを見た。そして、どんな手話よりも言葉を持つ、ぼくの大好きだった笑顔を、最後に一つ咲かせた。
「……し、あお……え」
彩希が、言った。正しい発声も発音も出来ない、不格好な声で。
──バイバイ。
そして、右手を広げて左右に振る。
──バイバイ。
ぼくもそれを真似た。
※平成20年6月1日から施行された改正道路交通法により、聴覚障害者の免許証取得は条件付きで可能になりました。