独占欲=醜いもの?-2
2 だんだん顔色が暗くなっていくアタシに、麻衣が提案してきた。
「じ、じゃあさぁ。今から、誘ったら?」
「あ、それいいかも」
「……へ?さ、誘うって、アタシから?」
「そう!太田くんはあんたのお願いなら聞くだろうしさ」
「い、今から?」
「もちろん、『思い立ったら吉日生活』って言うじゃない」
いや、愛里。『生活』はいらないから。
「でもなぁ……」
「あ〜…まどろっこしい!!携帯貸して!!」
「あ、コラッ!」
躊躇してると、麻衣がアタシの携帯をひったくった。そのまま、問答無用で操作してから、アタシに返す。画面には……憲の電話番号……。って、かかってる?
『はい、もしもし』
「は、はい!?も、もしもしもしもし」
『白雪か?どうかしたのか?そんなに慌てて』
「いや、な…何でもない」
『そうか?なら良いけど。何か用か?』
「えー……」
思わず、目の前の二人を見ると、手帳に『デートに誘え』と書いたカンペを出していた。
ど、どうしよう。もしかしたら、断られるかもしれんし……でも、デートしたくないと言ったら嘘になる。
………えぇい、ままよ!!
「あ、あのさぁ」
『ん?』
「こ…今度の日曜、どっか行かないか!?」
『日曜?良いよ。どこ行く?』
……よかった。とりあえずOK。でも、どこ行くって……。
ここで再びカンペ。『アタシに任せて、と言う』と書いてある。
「あ、アタシに任せてよ。良いだろ?」
『うん。わかった。じゃ、日曜な』
「う、うん。じゃ、じゃあ」
『うん』
通話終了……。
「どうだった?」
「日曜、OKだって」
はぁ、電話ひとつに、何でこんなに疲れるんだ?帰って寝たい。
ところが、そんなアタシの思惑とは逆にテンションを上昇させた二人はアタシを離してくれなかった。アタシの家で作戦会議?
勘弁して。
喫茶店を出て、その足で本屋に寄ってからアタシの家に直行。
アタシの部屋で、さっき買った女性誌やらなにやらでデートの行き先をあれやこれやと議論を交していたと思ったら、知らないうちにアタシの服装に議題が変わっていた。
最近知り合った癖に、妙に仲が良い。愛里の貞操が心配になってきた。
行き先は最近できた隣の岸日田市のショッピングモール。別に何処でも良いのだが、ここには何となく行ってみたいと思ったのでここが良いと言ったらあっさり可決した。
で、アタシの服装ときたもんだ。勘弁してくれ。
クローゼットやタンスの中を引っくり返して、着れそうな服を引っ張り出した二人の議論は終りそうにない。当の本人はおいてけぼりだぞ、お前ら。
「白雪、あんたさぁ、ジーンズばっかりじゃない。スカートとか無いの?」
「ない」
男嫌いのアタシが男を誘うような服を着ると思うか?
「露出があるのも一切無いよ」
「流石にこればかりは予想してなかったわ……。十年来の付き合いだけど、まさかこんなに深刻とは」
「別に良いじゃないか。ジーンズとTシャツで」
「そんな色気もへったくれもない服装でデートになんて行けるわけないでしょうが!!」
「ある意味、かなりの冒険家よね」
なんだろう、物凄く馬鹿にされた気分だ。
「こうなったら、アタシ達の服を貸そう」
「あ、それ良い」
麻衣の提案に愛里が賛成すると、一目散に部屋を飛び出していった。
あぁ、こういうのを『思い立ったら吉日』って言うのかねぇ。全然『吉』じゃないけど。
一時間程して、二人はそれぞれ大きめの鞄にありったけ自分の服を入れて帰って来た。
それがどんどんベッドの上に並べられていくのには、言葉もでない。もちろん呆れてだ。
「これなんかどぉ?」
「あ、可愛い!じゃあ、このスカートと……」
ずいぶん楽しそうだな。着るのはアタシだぞ。って言うか、まだ着るって言ってない。
「じゃあ、これとこれで、スカートはこれ!」
「アタシはそんな短いスカートなんてはかないぞ」
顔をブスッとさせて言ってやった。そんな短いスカートはけるか、馬鹿者。
「え〜っ、あんた、脚長いんだからさ、似合うと思うけどなぁ」
「そうそう、綺麗だし。やっぱり見せないともったいないと言うか、ねぇ」
「もったいなくない。アタシがそんな短いスカートなんてはくと思うか?」
「……白雪、太田くんも男だよ?」
「知ってる」
「彼が、彼女が可愛い…女らしい服装をしてほしいと思うとは思わないの?そんな色気もない格好ばかりしてたら、もしかしたら……浮気とか」
「!!!」
う、浮気………。その一言がアタシに重くのしかかる。
『やっぱり、もっと女らしい子が良いから。じゃな』
有り得ないとわかってはいるけど、嫌な方向へと思考が進む。
「わ、わかった」
と言うわけで、アタシは見事に二人の策略にはまって、多分もう着る事は無いであろう服装でデートに出掛ける事になったのだ。