『It's A Wonderful World 4 』 -9
「仁美さん! 今は仁美さんのことを考えろ!」
気づくとマサキが僕の肩を揺さぶっていた。
いかんいかん。
いつのまにか、話の趣旨が『ドキドキ☆自分のオヤジをオヤジ狩り!?』に変わっていた。
そうだよ、仁美さんだよ。
僕の好きな仁美さん。
僕が、粉の強さについて聞いてしまった仁美さん。
つうか、粉の強さって!!!
「ああ、僕なんか! 僕なんかフンコロガシだ!!」
「シュン!? 話がループするからやめろ!」
またしても、めくるめくネガティブな世界に陥ろうとしていた時、マサキに止められた。
「シュンよ、お前なら出来るって」
マサキにじっと見つめられる。
なんだよ。
真顔は反則だぞ。
「俺さ、仁美さんのこと好きだって言ってる奴、初めて見たぜ」
「えっ?」
マサキの言わんとしていることがわからない。
仁美さんのこと好きな奴なんて腐るほどいるだろう。
まあ、昔の僕は、彼女の魅力に気づいているのは自分だけだとか思っていたけど。
そんなのアレだ。チュウニ病みたいなもんだ。
「仁美さんってさ。レベルが違いすぎて、誰も狙おうとはしないんだよ。なあ、アキヒロ?」
「あ、ああ。まあな」
マサキの背後に立つアキヒロが戸惑い気味に答える。
「それなのに、あの子を自分の彼女にしようとしてるお前はすげえよ」
「そ、そうかな」
軽くって言うか、完全に諦めかけてたけど。
「あれ、そういや、サッカー部の主将とかも仁美さん狙ってるって……」
「ダマレ!」
何かを言いかけたアキヒロを、マサキの容赦ない手刀が襲う。
「ぐふう」
泡を吹いて倒れるアキヒロ。
それでも、マサキは。
「なんだアキヒロ。またカニの真似か。面白い奴だな」
そう言うので、僕も気にはしなかった。
アキヒロならカニの真似をしていても、さもありなんと思えるのだ。
「とにかく、シュン。もっと自分に自身を持て」
不意にマサキは僕に手を伸ばす。