『It's A Wonderful World 4 』 -5
「おまえら、何さわいでるんだよー」
マサキの背後に立っていたのはアキヒロだった。
アホ面でアイスを食べている。
僕とマサキは数秒の間、アキヒロを凝視した。
「いいのか。アホってのはこいつと同じレベルってことだぞ」
「ひとんちのアイス勝手に食うようなアホと一緒にするな!」
つうか、お前ら勝手にひとんち上がるなよ。
しかし、そんなセリフは、幼馴染には通じない。
「お前らなんだよー。ちゃんとおばさんに許可もらったぜ」
「いいや、シュンの母ちゃんに限ってそれはない」
ヒトの母親をなんだと思っているのか。
「いくらウチの母親だって、アイスくらいやってもおかしくないだろう」
その時、階段の下から足音が聞こえた。
ドスドスと。
「くぉらっ! アキヒロくん! まーた、ひとんちのアイス勝手に食べて! 金払いなっ!」
「ひいっ! すんません!」
筋骨隆々のアキヒロが怯える。
僕は、そんな実母を見て。
「江美子……」
思わず実名をつぶやいてしまった。
親父の稼ぎが悪いから……。
「とにかくだ!」
マサキが話を戻す。
気づけばいつのまにかアホに話をかき回されていた。
「シュン! このまま、仁美さんにアホだと思われていいのか!」
声を張り上げるマサキ。
「……ヒトミさんって誰だい?」
その声に反応する母。
「マサキ、母ちゃんいるんだから、黙れよ」
ぼそぼそと小声でマサキを注意した。
なんとなく母親に仁美さんのことがばれるのは嫌だ。
「いいのかって言ってんだよ! お前の愛する仁美さんにアホだと思われたままで! お前が毎晩マスかいて――」
「かいてねえよ! つうかマジ黙れ! もうお金払ってもいいから! お願いだから黙ってください」
気づけば、僕は土下座していた。
そうだった、こいつはこういう奴だった。
もう10年くらいの付き合いなのに。
「ふっ」
そんな僕を見て、マサキは大人びた笑みを浮かべる。
ひどく芝居がかっていた。