『It's A Wonderful World 4 』 -20
そして。
試験当日。
テスト開始の合図で、一斉に皆がテスト用紙を開く。
聞こえるペンを走らせる音。
緊迫した雰囲気。
そんな中、僕は心の中で呪詛をもらしていた。
「あのゴリラ……」
頭の中には、ロッキーのテーマが延々と流れていた。
全然、問題に集中できない。
結局最後まで僕の邪魔をしていった。
もはやその手口が鮮やか過ぎて何も言えない。
目の前に広がる数学の問題の数々。
やばい、全然集中できない。
頭の中には両手を広げたスタローンの顔しかない。
エイドリアアアアアン!
エイドリアアアアアン!
なんでだ……。
結局僕は、ダメなのか。
数十年前の映画に阻まれて、仁美さんにいい所を見せられないのか。
「クソ……」
胸に押し寄せる絶望。
僕は、ふと試験官の目を盗んで、窓際の仁美さんを眺めた。
窓際から入ってくる風に、長い髪を揺らして。
真剣な眼差しでテスト用紙と向き合う仁美さんの姿。
綺麗だった。
あの時と同じだ。
昔、美術室で初めて仁美さんを見た時と。
僕は、そんな仁美さんに少しでも近づきたいんだ!
「……」
僕はゆっくりと目を閉じる。
まだ試験開始から十分たっていない。
今ならまだ間に合う。
集中だ。集中。
僕の脳を占領するロッキー。
ワイルドな雄たけびを上げるロッキー。
その背後に忍び寄る。
そして、手に持っていた金属バットを振りかぶり!
死ねえええええええ!
ロッキーの脳天めがけて振り下ろした。
悶絶して倒れるロッキー。
勝った。
僕は目を開く。
前の席では、早くも試合放棄したアキヒロが居眠りを開始している。
僕はこうはならない。
テスト用紙に目を落として、ペンを走らせる。
解ける。
この1ヵ月は無駄じゃなかった。
ワークで解いた問題ばかりだ。
こんなの全然楽勝だぜえええええええ!
走り出したペンは止まらない。
僕は無我夢中で問題を解き続けた。
そして、一つ目の試験終了後。
「ふいー、全然わかんなかった。シュンはどうだった?」
あくびをしながら、こっちを振り返るアキヒロを見て、僕は疲れ果てた返事を返す。
「ロッキーが強かった……」
「な、何言ってんだ、お前」
この後の試験も僕は絶好調だった。
こんなに手ごたえのある試験は初めてだ。
無駄じゃなかった。
努力した甲斐があった。
試験中、何度もマサキの妨害にあった。