『It's A Wonderful World 4 』 -18
「いいんだ。アホセフ募金だ。世界の恵まれないアホのための愛の募金だ」
「なんかよくわかんねえけど、シュンかっけーよ……」
「そうかねそうかね」
そう言いながら、僕は高く笑った。
いや、いかんいかん。
自重せねば。
僕だって、かつてはアホだったんだ。
今では知的に素敵なナイスガイだけれども。
初心を忘れてはいけない。
僕は深呼吸をしてから、アキヒロを見つめる。
右手に拾ったエロ本、左手に哀れみの千円札。
このアホの塊の姿をじっくりと目に焼き付けるのだ。
「シュン!!!!」
「Ouch!」
その時、突然僕の頬に痛みが走った。
しかし、咄嗟に出た悲鳴さえもEnglishになってしまう自分の知性が怖い。
振り向けば、肩を怒らせたトンガリ頭がいた。
「ボクを殴ったね……。父さんにも殴られたことないのに!」
「なんだそのキャラは……」
呆れた目で僕を見つめるマサキ。
「思い出せ、シュン! お前の親父はクソオヤジだろ? 何度も殴られたことあるだろ!」
がくがくとマサキに肩を揺さぶられる。
な、何を言ってるんだこのスパイク野郎は。
「お、オヤジに殴られたことなんて……はっ」
フラッシュバック。
幼い頃、幼稚園で習った歌の練習をしていたら、うるさいと殴られた。
オセロをして遊んでもらっていた時、角をとったら殴られた。
巨人が試合に負けたとき、腹いせに殴られた。
なんとなくで、殴られた。
「あのクソオヤジ!!!」
腹の底から怒りが沸いてくる。
自分にあのロクデナシの血が混じっているなんて。
子供の頃、父の本棚に『風の谷のナウシカ』と書かれたビデオテープがあったので見てみた。
中身はAVだった。
「あんなスタジオジブリを馬鹿にしたオヤジの血が僕に流れているなんて……っは、僕は何を」
「正気に戻ったか」
気がつけば額に汗をかいているマサキの顔があった。
「勉強もほどほどにな。勉強しすぎて、お前ちょっとウザいキャラになってたぜ」
マジか。
天性のウザさを持つマサキがウザいと感じるとは余程ウザかったのだろう。
そんなことでは仁美さんに嫌われてしまう。
「悪い、ちょっと根をつめすぎた」
「試験前日だもんな」
「ああ…」
窓の外を見れば、日が暮れようとしていた。
明日は試験。
どうなるのだろう。
いい結果が残せるのだろうか。
僕は、少しでも仁美さんに近づけるのだろうか。
ふと、脇を見ればエロ本を読んでるアキヒロがいて。