『私の咎』-10
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セールが始まると、それは嵐のような忙しさだった。
休む暇もなくセール品の陳列とレジの補佐。客は長蛇の列を作り、普段暇なはずのお昼過ぎでも人が絶えることがなかった。
「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ、本日○○が安くなっております。さあさあ、お買い得ですよ、この機会にぜひお買い上げください! いらっしゃいませ、いらっしゃいませ!」
店内に響く店長の声に客はその売り場へと群がり始める。
その隙を縫ってそのほかの棚の陳列に向かう奈津美たちであった。
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セール最終日の頃には倉庫一杯にあった品もほとんどが売りさばけ、たたまれたダンボールがいくつも束ねられていた。
「島本さん、それ片付けておいて」
「あ、はーい」
残業に続く残業にへとへとになっていた奈津美だが、仕事中は弱音を吐かないようにと踏ん張り、ビニール片手にダンボールに向かう。
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一通り終わるとまた持ってこられるの繰り返し。時計が閉店時間の八時を過ぎたころになってもまだ終わらず、他のパートは持ち場を終えた順に「お疲れ様」と去っていく。
本来なら奈津美もそこで上がれるはずなのに、店長である博は「これもお願い」と仕事を持ってきてくれる。
――ふぅ、残業代出るからいいけど、やっぱりきついわ……。
小さな社会ではあるものの、それでも無為に時間を過ごすよりはいい。お金も子供のことを考えれば、多いほうがよいのだから。
そう自分に言い聞かせ、奈津美は残りの作業を終えるべく、黙々と仕事をしていた。
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「お疲れ様」
「あ、店長……」
疲労感に包まれた身体は内面が熱いのに、表面が妙に冷たい。
時計を見るとまだ八時半。本来なら午後のパートの人が明日の準備と清掃をしている時間なのだが、セールのシフトのせいでそれらは明日の朝に回されたらしい。
それならば自分も早く帰らせてといいたかった奈津美だが、差し出された紙コップに威勢をそがれる。
「これ、新商品なんだって、試飲してみてよ」
なみなみと注がれたジュースを奈津美は遠慮なく受け取り、ごくごくと飲む。
赤い水。葡萄の香りと甘さ、ほんのり苦味もあるが、美味しい部類のもの。
「美味しいですね」
「そう? よかったらもう少し飲む?」
「え? あ、はい、でも他の人は……」
「いいのいいの。今まで残ってくれたんだし」
「それなら遠慮なく……」
苦味。大人の味。というよりも、純粋に大人の飲み物。
そう感じたのは、身体が妙に火照り始めてからのこと。
最初は仕事を終えたあとのそれだと思っていたが、葡萄に隠れたアルコールの臭いに気付いたのは、少し足がふらつき始めた頃。