豚カツ=勝利のおまじない?-1
1 今日は学園祭の二日目、体育祭だ。
十月の頭だと言うのに、太陽がギラついて暑いったらない。
まぁ、体育祭日和ではあるけどな。
『豚カツ=勝利のおまじない?』
アタシたち、二年六組は前日の文化祭での合唱と各イベントの成績は、アタシが『舞姫』に選ばれたこともあって、まぁまぁ良い結果だった。
一位である三年のクラスをこの体育祭で巻き返す事は可能だ。
アタシとしては、初めての体育祭。絶対に勝ちたい。そして、最優秀クラスに選ばれたい!
…ん?去年はどうしたんだ、って顔してるな。
去年は、サボった!!!
何せ、去年のアタシは社交性というものが皆無だったからだ。人とはほとんど話さず、話されず。
友達も、中学からの友達が数人……。ぶっちゃけて言うと、片手で数えられる人数だった。
そんな中で体育祭に出て、何が楽しいと言うのか!?
そういう訳で、一年の時の体育祭は出ていないのだ。
そんなんだったアタシが、今年は体育祭に出ている。しかも、クラスメイトとは結構仲が良い。去年のアタシからは考えられない変貌ぶりだ。
もちろん、この変貌の要因は憲だ。
憲には感謝してもしたりない。ちょっと悔しいから表には出さないけどね。
そして、アタシはその憲に弁当を作って来た。
苦労したぞ〜。何せ、アタシの料理の腕は壊滅的だったからな。ここ二週間特訓して、それが嫌と言う程わかった。
アタシは放課後は憲に教えてもらい、休日は憲の家に行って憲のお母さんに教えてもらい、一人の時も家で練習して孝之を実験台にして、猛練習をした。
憲はあぁ見えて、結構好き嫌いが多い事を憲のお母さんから聞いた。
まず、キノコは全く駄目。あと、トマトと茄子も駄目。他に、魚料理もあまり好きなのは多くないらしい。
反対に肉料理は大好物で、特に豚カツが食卓に並んだ場合、ご飯を丼で三杯お代わりする事もあるらしい。
正直、それは有り得ないと思っていたが……ある日、練習が長引いて憲の家で夕食を頂いた時だった。
アタシは見たんだ。豚カツと丼飯三杯を旨そうに食べた憲を……。
まぁ、そんな訳で、アタシは豚カツに挑戦することにした。
二週間の間に何枚の豚カツを揚げたか分からない。少なくとも一日三枚は揚げたから、だいたい四十枚ぐらいにはなるだろう。
そのうち八割五分は暗殺兵器と化したが、まぁ気にしない気にしない。
最後あたりは孝之の舌も腹も『一応』大丈夫だったし。
さぁ、今の競技が終わったら、昼休みだ。
憲はちょうどその競技、『1500m走』に出ている。
じつは憲は、スポーツ万能で鳴らしてる高坂と孝之に次いでのタイムを保持している。
何で一位二位の二人を出さないかと言うと、男子100m走に二人とも出ているからだ。二つの競技は時間的に連続していたから、憲が1500mの方に出ているのだ。
アタシは何の競技に出たのかって?
女子100mと75mハードルで新記録出して一位になったぞ。まぁ、アタシは短距離走ならクラス一だからな。もちろん、男子も含めてだぞ!
おっと、そんな場合じゃない。今は憲の応援しなければ!!
憲は、現在三位。三周目を終えて、四周目に入った。200mトラックを七周半する競技だから、半分は終わった。
苦しそうな顔して走ってるな……。そりゃそうか。持久走だもんな。おっ、憲が二位になった!
アタシたちのクラスのテント前を走っていく。
「コラーッ!!憲、一位は目の前だろ!!さっさと抜けぇ!!!」
「し、白雪。そこは励ましの言葉を言うところだろう?そんなんだから、鬼女みたいに言われるんだ」
「憲も、苦労してんな……」
「…………ふんっ!!」
バキッドゴッ!!
「ぐはっ!?」
「ぎゃあ!!」
後ろで呟いた孝之と高坂にそれぞれエルボーをかまして、応援に戻る。
さぁ、六周目だ。憲の体力もそろそろ限界かな……?しかし、憲は勝つ!!…はず。
クラス全員が声を張り上げる。
うん、やっぱり仲間って良い。アタシが応援してもらってるんじゃないけど、嬉しいや。
あ………憲が笑った。
憲も嬉しいんだ。一生懸命、応援してもらって。アタシも負けてられない!
声を張り上げた。
さて、憲は……って、一位に離されてるじゃないかぁ!!なぁにやってるんだ!!
そのまま、憲は六周目も抜けなかった。もう、一周半しか残ってない。この辺りが一番苦しいんだよな。
一位との距離が詰まらないまま、憲がアタシ達の前にさしかかる。
アタシの横で高坂が叫んだ。
「憲、このままじゃ負けるぞ!!スパートだ!!勝って死ねぇ!!!」
た、高坂ぁぁ!!死ぬのは貴様だ、ていっ!!!
「グゲッ!!!!」
アタシの踵が高坂の脳天に落とされた。奇声をあげて、高坂が崩れ落ちる。
震えるクラスメイト(一名死亡)をしり目に、アタシは叫んだ。
「憲っ!!行けぇーーーっ!!!」
スタートしたラインを越えて、残り半周……。
アタシの声は、多分届いてない。けど、憲はスパートをかけた。