『Summer Night's Dream』その5-9
「だから、お願い。今日は二人で行ってきて!」
「はっ?」
拝むようにさくらが両手を合わせて頭を下げていた。
おいおい、ちょっと待てよ。と陽介は思った。
都合が合わないのは仕方ない。だが当事者がいなくては話にならないし、何より意味がない。
それにこれは、彼女の問題なのだ。
彼女自身が動かなければ、何の意味もないのだ。
それらを踏まえて、少し厳しめに言うことにした。
「言いたかないけど、そもそも俺達って無関係なわけじゃん。君が行かずにそれを押し付けるって言うのは、虫が好すぎないか?」
「本当に、そう思う?」
さくらがぼそりと呟いた。
「あなたは私に関係ないって、本当にそう言えるのかしら」
手元に置いていた紙コップに彼女自身の顔が映り込んでいた。綺麗に切り揃えられた前髪の下で、うつろな目を瞬きもさせずにじっと陽介を見つめていた。
心臓が冷えていくような気持ちで陽介は席で固まっていた。
さくらが「変わった」のはそのほんの一瞬で、その後は申し訳なさそうに今日はごめんね、と何回も謝っていた。
そのほんの一瞬で陽介は完全に気圧されていた。
大して暑くもないのに汗をかき、やたらと喉が渇いて水を三杯もおかわりした。
今まで陽介はさくらのことを何も知らないと考えていた。
だが、さくらは自分のことを知っている……?
いや、さくらではない。
彼女に同じ夢を見せ続けていた。
昨日の夜、陽介に語りかけてきた。
今回の全ての渦の中にいる中心人物。
はたして、あの言葉は……。
陽介に向けられていたのではないだろうか?