同窓会-6
**
そう…思い出した。
あの告白のあとも、こうして強引に唇を奪われたんだった。
その藤木の強引さが、当時あたしの逆鱗に触れ、結果それで藤木を避けるようになったんだった。
『だって柏木はこうでもしなきゃ、俺の言うことなんか聞かないじゃん!』
あ…デジャヴだ…
――今の言葉、一語一句、あの時の感覚とシンクロしてる。
あたしを小馬鹿にしたような、憎らしいやんちゃな表情までそっくりだ!
今あたしの目の前に、あの日の藤木がいた。
**
「あたしもうすぐ離婚することになると思う」
藤木が飲み足りないとあたしを誘う形で、地下のバーに移動した。
『それは柏木が望んだことなの?』
大人に戻った藤木はあたしにそう聞いた。
現実のあたしは28才で、目の前には、片付けなければならない問題が山積みだった。
3年続いた夫との結婚生活は、修復不能な程冷えきっていたし、大学卒業後から勤めてきた会社は、この不況で倒産寸前だった。
「たぶん…お互いがそう望んだんじゃないかな?もう今となってはどっちでもいい…」
あたしは吐き捨てるようにそう言った。
『なげやりになるなよ…柏木らしくない』
藤木は手に持ったロックグラスをじっと見つめていた。
「藤木…何もかもうまくいかない。あたしどうしたらいい?」
あの頃はよかったなんて言うつもりはないけどさ。
世の中は試験勉強とは違って、頑張った分だけ評価されるわけじゃないし、ご褒美だってそうそう貰えない。
それはわかってても、自分の頑張りが報われないのはやっぱりつらいし、それが続けば心だって弱ってく。
今のあたしはまさにそんな状態だった。
『柏木が悪いわけじゃないよ。俺はあの頃のお前しか知らないけど、お前はきっと、精一杯やってきたんだと思う』
藤木の言葉がじんわりと心にしみた。
涙を見られたことは恥ずかしかったけど、素のあたしを知ったあとも、こうして藤木は側にいてくれる。
誰かの言葉がこんなに嬉しく感じたのは初めてだった。
――それが藤木だから、余計にそう思えるのかな?