大失敗=成功への第一歩?-1
1 人には、必ず一つは苦手な事がある。
憲が理系の勉強が苦手だったり、麻衣が運動が苦手だったりするように。
万能みたいに思われてるアタシの場合、それが料理だったりするのだ。
『大失敗=成功への第一歩?』
アタシは昔から料理が苦手だった。
アタシが料理を作ると、もれなく腹痛を訴える人間も量産される。
昔、アタシが作った料理を味見した孝之は三日間、腹痛に悩まされた。アタシは食べても大丈夫だったのに……、不味かったけどさ。
どうもアタシの体は自分で作った料理に対する耐性が生まれつきあるらしい。幸運なのか、不幸なのか……どっちなんだ?
アタシとは反対に、意外にも憲の料理は凄く美味しかった。
今日は孝之が久しぶりに帰って来たからと、昔の友人の家に泊まりに行ったから、好機とばかりに憲を家に招いたんだ。
「……なぁ、白雪。お前さぁ、この冷蔵庫の寂しさは一体なんだ?」
アタシが棚からコップを出してる後ろで、麦茶を冷蔵庫から出そうとした憲が言った。
目当ての麦茶はドアポケットに入ってる。他には……。
「納豆と梅干し、牛乳と麦茶、それと卵。それ以外はなぁんも無いぞ」
「え……変か?」
「当たり前だ!お前、なに食って生きてるんだよ?」
「え〜……ご飯と今言ったヤツで朝は済ますだろ。昼飯は購買だし、晩はコンビニ弁当かなぁ」
「……料理ぐらいしろよ」
「う……」
それを言われると痛い。憲はまだアタシの料理の悲惨さを知らないから仕方ないけど……
「いいや、買い物行こうぜ。まだ七時だからスーパー、開いてるだろ」
「え……?」
突然の言葉に呆然とする。そんなアタシに憲は袖を巻くって、笑いかけた。
「俺が腕によりをかけてやるよ」
その後、売れ残りであろう食材をスーパーから帰って来たアタシ達は早速料理を始めた。って言っても、アタシは見てるだけ。
ちなみに、代金はワリカンだ。憲が全部払うって言ったけど、アタシは母親から充分すぎる程の仕送りをもらってる。アタシが全部払おうとしたら、今度は憲が譲らず、結局ワリカンになった。
そういや、レジのおばちゃん笑ってたな。今さらだけど、恥ずかしくなってきた。
「待ってろよ……今、太田憲特製の肉野菜炒めとスパゲティサラダを作るから」
そう言って、買ってきたキャベツを千切りにし始める。……凄い速い。うわぁ、あれでよく指切らないな。アタシだったら、もう三回は切ってるぞ。
肉と野菜を手際よく炒めながら、スパゲティを茹でて、切った野菜とマヨネーズで絡めてる。美味しそうだな。
そう思いながら、料理してる憲の姿に見惚れてる時だった。
「白雪。悪いけど、ゆで卵作ってくれないか?サラダに添えるから」
………え?ゆ、ゆで卵?
「う、うん。解った」
え〜と、ゆで卵って、鍋でお湯沸かして、そこに卵を入れるんだよな?
う、う〜ん。け、憲に聞くか?
………いやいや、駄目だ。
ゆで卵も作れない女だって思われる!世間一般的に、女は料理が上手い方が男は良いって言うし。
今、思えば、この時憲に聞けば、まだましな結果になったと思う……。
アタシは鍋に水を入れて、コンロで火にかけた。
ところがだ、なかなかお湯が沸かない。アタシは元々気が長い方じゃない。
そこで、アタシはある方法を思い付いた。はっきり言って、アタシは馬鹿だった。いや、常識知らずだった。
ガチャッ……バタンッ!
ピッ………ウィーン。
「これでよし!」
常識知らずのアタシは時限爆弾をセットした事にも気付かずに、憲の居るダイニングに向かったんだ。
「あれ、白雪。ゆで卵は?」
「あぁ、今作ってるよ」
アタシは憲に返事して、テーブルを拭き、箸やコップを置く。料理してないんだから、これぐらいはな。
その時だった。アタシがセットした爆弾が破裂したのは……。
パァーーーン!!
「ひゃあ!?」
「な、なんだぁ!?」
キッチンから何かが破裂する大音響。
憲とアタシは一目散にキッチンに向かう。何が破裂したかは、言うまでもない。
「……し、白雪。まさかお前……」
先にキッチンに入った憲がアタシを見る。
「へっ!?……あぁっ、ゆで卵がぁ!!」
そう、電子レンジでチンしていた卵がものの見事に爆発したのだ。
「な、何で爆発するんだぁ!?」
「当たり前だ!電子レンジでゆで卵が作れるか!!」
「そ、そうなのか?アタシは茹でるんだから、てっきりチンすりゃ良いって……」
真顔でそう言ったら、憲は額に手を当てて天井を見た。
「……とりあえず、飯食ってから、電子レンジを掃除しよう」
疲れた顔をして、憲はキッチンから出ていった。
結局アタシ達は食後、後始末に追われる事になったのだった。