長い夜 3-4
「そうか。なら、いいけど。ちゃんと休みをもらって、身体を大事にしなさいよ」
優しい声が、その柔らかな微笑を連想させた。
「あの・・佐伯さん」
「うん?」
「帰ってこられたら、会ってもらえませんか。お話がしたいんです」
しばらくの沈黙がとても長く感じられた。実際は長くもなかったのかも知れないが、遼子にとっては自分の心臓の鼓動さえ消したいほどに耳を済ませて返事を待った。
「・・・・。わかりました。じゃあ、また連絡します。」
佐伯の電話での応対は事務的に感じられた。職場の人がいたのかもしれない。
「急ぎませんから。でも、待ってます。無理云ってすみません。」
「じゃ、時間だから」
「はい、お気をつけて。お電話ありがとうございました。失礼いたします」
ツー・ツー・ツー・・・。
遼子は通話が切れたあとも携帯を離せなかった。佐伯との会話というよりも佐伯と繋がっていたという実感を失いたくなかった。
しばらくの余韻のあと、遼子は改めて佐伯との約束を取り決めた自分の大胆さが信じられなかった。しかし、後悔ではない。自分で自分に「よくやった」と褒めてやりたかった。
とっさに出た言葉だった。会いたいなんて・・・考えていた台詞だとしたら、きっと言えずに終わっただろう。
もっと話したかった。いつも時間がなくて引き離された。偶然の出会いだったからだ。
ならば、約束を取り決めて、一日、いいや、一時間でも佐伯を独占したかった。
2,3日で帰るとは云ってたものの、忙しい予定がどこまで詰まっているのかは分からない。また長い夜を待ち続けるのだ、心地よい痛みと共に。
12月25日、浮かれたような周りの雰囲気のイブも過ぎて、遼子はホッとしていた。遼子にはイブの予定があるわけでもなかったが、仕事が押してしまって残業になった。自分のせいではないにしろ、彼氏のいる佐野容子の気落ち振りを申し訳なくも感じていた。そのかわりに今日こそは早じまいだとスタッフ一同が仕事を急いで仕上げた。容子もイブには会えなかった彼氏との待ち合わせに飛んで行った。まさしく、飛ぶという表現のごとく、地に足が着いていないほどのスピードで瞬時に消えてしまったのだ。
(いいな・・)妬みではなく純粋に、ただし苦笑いでつぶやいた。
「クリスマスなんて何さ♪恐くなんてないさ♪」
オバケをクリスマスに置き換えて歌いながら自転車を走らせていると携帯が鳴った。今度はしっかり登録されている。佐伯だと一目でわかった。
自転車を道はしに寄せて電話に出た。