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長い夜
【大人 恋愛小説】

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長い夜 3-3

翌日も目覚めてすぐに着信は確認したものの、朝の忙しさはそんな余裕を持たせてはくれない。

日常がバタバタと遼子を駆り立てて、職場へと急がせた。



午前には納品があって、佐伯の幻想からも電話そのものからも拘束を解かれたかのように仕事に集中した。

昨日の一日で一生分「待つ」という集中力を使い果たしたような気にもなっていた。

もともと遼子は執着心の強いタイプではないのかもしれない。いや、あきらめがいいというのだろうか、昼食も済ませて、午後の仕分け作業もひと段落ついた午後三時、後輩の佐野容子が入れてくれたコーヒーと、各自持ち込みでデスクの引き出しに必ず備えてあるアイテムのお菓子類は、ともするとランチそのものよりもメインとされるブレイクタイムのひと時となっていた。

そんな気の緩んだ時に携帯が鳴った。慌てて送信者を確認すると未登録の見覚えのない電話番号だった。

(佐伯さんだ・・)

そう思うと即座にデスクを離れ、オフィスのドアを開けて外に出、切られないように急いで通話を押した。

「もしもし」オフィスから遠のくように歩き続ける、歩いているのと緊張しているので息切れがしていた。

「佐伯です、今大丈夫ですか?」

佐伯が息切れの遼子に、仕事で忙しくしていたのかと気遣った。

「ぜんぜん、大丈夫です。」

遼子はもう一方の手で受話器の口元を隠しつつ、辺りを見渡してひとけのいないところで立ち止まった。その受話器の口元を押さえながら、呼吸を整えるために大きく深呼吸して、すぐさま耳に当てた。

「連絡が遅くなってしまって申し訳ない。実は、いま空港なんですよ。また、出ることになってしまって」

「そうだったんですか、本当に忙しくされてるんですね・・・、無理をいって申し訳ありませんでした」

「いや、今回は2,3日で戻る予定なんです、ちょっとしたトラブルがあって参りましたよ・・。そうそう、何でしたか?」

「いえ、あの、またご迷惑をおかけしてしまって、きちんとお詫びもできてなくて」

遼子はとりあえず詫びたかった。

「うーん・・、迷惑とかよりも、君は頻繁にあんな風に倒れてしまうことがあるの?」

佐伯は心配そうに聞いてきた。

「そんなことないです。元気です。けど・・・やっぱり疲れてしまってたのと・・・」

遼子は、佐伯に会うと気が緩んでしまう、といいかけてやめた。まだ何もしらない何度も会ったわけでない相手に云える台詞ではないと口ごもった。

「疲れてただけです。佐伯さんには二度もご迷惑をおかけしましたが、今まであんなこと一度もなかったんです。」

遼子は返事に力が入ってしまっていることを自覚していた。


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