まちぶせ-1
先輩!
新入部員のひろみが貴之に走りよる。
また、一緒になりましたね?
ああ、岡くんとはよく一緒になるね?
でもよかった。暗くなっても先輩が一緒なら安心!
そう言うと、ひろみは貴之の腕にしがみつくようにすりよった。
貴之は、本来なれなれしい娘は嫌いだが、子供のように無邪気なひろみだけは別だった。それにしても、ひろみは本当に綺麗になった。
春先、貴之の所属する高校のテニス部に、新入部員として入ってきたひろみは、
本当に子供のようだった。半年がたちテニスの腕も飛躍的に向上したが、長い髪を靡かせてコートを舞う姿は見違えるほど美しく、誰もが認めるほど華があった。
髪を染めたんだね?
あ、嬉しい! 気がついてくれました?
先輩はどうですか? 染めたりする娘は嫌いですか?
そんなことないよ。校則に違反しているわけでもないし。
髪型といい、よく似合ってる。とてもかわいいよ。
ひろみの笑顔がはじけた。
先輩にそう言ってもらえると、とても嬉しいです。
ひろみは貴之が好きだった。
テニス部に入ったのはもちろん、テニスに打ち込み上手くなったのも、おしゃれに気を使いはじめたのも貴之を意識してのことだった。
そして、ひろみと同じように貴之に憧れる女生徒は少なくなかった。
しかし、貴之には彼女がいた。そしてその彼女は、キャプテンである貴之に相応しい誰もが認める学園一の才媛、龍崎だった。
ひろみは、二人の仲を壊したくないと思いながらも、貴之への思いを断ち切れず、時折帰り道で貴之を待ち伏せては、短い二人の時間を楽しんでいた。
先輩に可愛いと言われた。
ひろみは胸を締め付けられるような思いを味わっていた。
あきらめようとして、あきらめきれない貴之への思い。
テニス部の後輩、妹のような立場で満足しようとしていたひろみの思いに、
貴之の言葉が火をつけた。
先輩、あの・・・・・・
どうしたの? 岡くん。
一度だけ、一度だけデートしていただけませんか?
言ってしまった。
もう、だめ。
これで先輩に合えなくなってしまう。
秘めた思いを口にしてしまったことを、ひろみは後悔した。