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【推理 推理小説】

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4th_Story〜手紙と2筋の涙〜-1

0.日常 

 12月31日。
 大晦日、大晦など、様々な呼び名を持つこの日も、あと数分で終わりを迎える。それはつまり、この1年もあと数分で終わるという事であり、また、新たな年を迎えるという事でもある。テレビは、すでに紅白歌合戦を放映し終え、多分、巷では有名なのだろう、様々な芸能人を集めて、年越し番組を流していた。それを見ながら、朝月里紅<あさつき りく>と稲荷黄依<とうか きい>は、炬燵の中に双方の足を突っ込み、うとうととまどろんでいた。
 カウントダウンが始まった。後10秒で、日本は元日を迎える。5秒、4秒、3秒、2秒、1秒――。
「ハッピーニューイヤー!」
「うるさい!」
 蹴られた。炬燵の上には、籠いっぱいに盛られた蜜柑とその皮が乱雑に並んでいるだけだが、表面下、もとい炬燵内では、壮絶な戦いが繰り広げられていた。戦いとは言え、圧倒的に黄依の優勢である事は、言うまでもない。それは既に、戦いでもなんでもなく、黄依による一方的な攻撃だった。
「なんだよ。いいじゃんかよ。新年だぜ? ニューイヤーだぜ?」
「だから?」
 目が怖い。黄依としては、折角まどろんできてそのまま寝ようかと思ったところへの、里紅の雄叫びだったのだから、怒るのも無理は無いだろう。机に両手を叩き付け、里紅を睨みつける。
「新年? ニューイヤー? それが何。ただ新しい年を迎えただけでしょ? 言い換えれば日付が変わっただけなの。それをよってたかって、新年だ、元日だ。ああああああ、うるさい!」
「よ、良くしゃべりますね……」
「あ゛?」
「すみません」
 ドスが、ドスが効いていた。言いたい事を言ってすっきりしたのか、黄依はそのまま机に突っ伏して寝てしまった。嵐と形容すべき黄依の暴走が終わり、内心ほっとした里紅は、ため息をついた。黄依はもうちょっと、日本特有のしきたりや文化と言うものを味わうべきだと思う。先ほどの大晦日しかりだが、七夕やクリスマス、節分など、文化的な日は、里紅や、黄依の兄である屡兎<るう>、姉とも呼べる存在である神木碧<かみき みどり>がいなければ、黄依は何事も無かったようにその日を過ごしてしまう。折角日本にいるのだし、そういうものを楽しむべきだと、里紅は思っていた。しかし、周りに流されない、自分の中に芯を持っている所は嫌いではない。その芯を、もうちょっと柔らかくしても良いのではないかとは思うが。
 黄依の寝顔を見ながらそんな事を考えていた里紅だが、自身も幾分眠気を感じてきた。炬燵から出て、この肌寒い空間を隣の部屋にある布団まで歩いて行くのは、絶対に嫌なので、このまま横になり眠る事にする。点けたままのテレビから流れる音が、心地よい子守唄となり、里紅を夢の世界へと誘っていった。

 さて、なぜ里紅と黄依が2人だけで、ましてや同じ部屋で年越しを過ごしたのか。そのあたりを説明する必要があるだろう。時は、12月30日、晦日にまで遡る。その日は、いつものメンバーである、里紅、黄依、屡兎、碧の4人で、稲荷家へとお邪魔していた。稲荷家は一軒家であり、住んでいるのは、黄依と屡兎の2人だけなので、騒いだりしても余計な心配は要らないのだ。とは言え、里紅も黄依も未成年であり、酒も無いので、それほど煩くなる事もない。去年もこのように4人で集まり、まったりと年越しを過ごした。
 しかし、今年は少し様子が違った。と言うのは、屡兎と碧が31日の朝から旅行に出掛けると言うのだ。そこで、する必要の無いような、野暮とも言うべき疑問が浮かび上がった人間がいた。
「なんで2人で旅行なんすか?」
 空気が読めない。悲しいかな、その代名詞とも言える人物、朝月里紅であった。本人にしてみれば、ふと浮かんだ疑問をぶつけただけなのだが、周り、主に黄依にとっては、バカだろこいつと思わせるような質問である。
「いやあ、俺ら、目出度く付き合うことになったんだよ」
 その質問ににへら顔で応えたのは屡兎だった。碧は隣でニコニコと笑っている。
「へ?」
 付き合う? 屡兎さんが? 碧さんと? 何を言っているんだろうか。バカになったのだろうか。そんな言葉が里紅の頭の中を駆け巡った。決して、屡兎の事が好きだったから、とかでは無い。碧の事が好きだったから、というのは否定できない。


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