長い夜(二)-1
< 何も知らない >
一年は瞬く間に過ぎていく。誰もが言うように・・・
遼子もまたそんなことすら実感するヒマもない一人だった。
12月最終イベントが待ち受けていた。
会場と会社と製作工場、ドレス製作会社、デザイナー事務所、結婚式場、旅行会社。
いったい、自分が何者でどこに雇われているのかさえもわからなくなるほどに、現場を駆け回った。
今時ではPCに添付送信でことが足りると言う者も多いが、
遼子は人に直に会い、表情を確かめ、手に触れて本物を確信し、目にしたかった。
手直しも直接報告に出向く。
電話で済ませるには伝えたいことの半分も伝えられない気がするのだった。
チーフの高橋とのコンビネーションも絶妙なものに確立されてきたように感じられた。
高橋も要領だけにとらわれず、遼子の動きたいように動かせてくれた。
遼子はそんな仕事に追われる毎日の中で佐伯のことを思い出す余裕もなく、
イベントを翌日に控えた最終チェックに走り回っていた。
会場のレイアウト、照明の色合いや角度、そういった舞台まで余念がない。
ホコリっぽいジーンズとセーター、フリースのジャンバーという幾日も同じスタイルの日々が続く、
髪を一つに束ねて化粧っ気のない顔はただ瞳だけがギラギラと輝いていた。
今日こそは早めに仕上げて明日の本番に控えねば。
明日はまた打ち上げも含めまともな食事も期待できない一日になるのだと
遼子は思い巡らした。そう・・昨年のように・・・昨年?
遼子はそこでふと、佐伯を思い出した。もちろん、この慌しい一年でその日の詳細な記憶などほとんど薄れてしまっているのだが事実の流れだけは記憶に戻った。