長い夜(二)-7
タクシーを拾うと、遼子はママにも丁寧に礼を言って、佐伯さんにもよろしくお伝えくださいと伝言を頼んだ。本当は佐伯から離れたくなかった。やっと会えたのに、もっと話がしたかったのにママにもそんな素振りは見せられずに遼子は頭を下げるとタクシーに乗り込もうとした。
ところが、頭をさげた途端にまためまいがして気が遠くなった。
遼子の身体がタクシーのドアの前で崩れ落ちた。
ママが大きな声で遼子を呼んでいる。
「りんちゃん!りんちゃん!・・・・・!」
遼子にはその声も遠く、やがて聞こえなくなっていった。
遼子が目覚めたのは暗い部屋だった。
(ここは? ここはどこなの?・・・・しまった。わたし・・また・・・?)
心地よい感触と香りに包まれて遼子は寝たままで見える範囲の視界を探った。
確かにどこかの部屋のようだと遼子は思った。ベッドに寝ていると確信したのは枕をして布団がかけられているからだ。清潔ないい香りがする。このまま眠ってしまいたいくらい心地いいが、そうはいかない。意識がしっかりと戻ってくると遼子は布団を捲り、ベッドから出ようとした。
ところが、自分が下着姿なのを知るとまた急いでベッドの中にもぐりこんだ。
落ち着いて、記憶をまず確かめなくてはいけないと頭をフルに回転させ始めた。
こんなこと、まるであの時みたい。
そう思った瞬間、まさか!と遼子はまたベッドから立ち上がった。
薄い毛布を身体に覆い、そっと部屋を抜け出してここが何処なのかを確かめようとした。
隣はリビングになっているようだ。大きなソファの背が見える。ひとけがないガランとし部屋は冷えていた。
「クシュンッ!」不意にくしゃみをした遼子は、その瞬間、ソファの向こう側からガバッと表した姿に驚いた。
「ヒッ・・!」驚愕する遼子を見て、
「・・・起きたの?びっくりしたのはこっちだよ」と眠そうに言うのは佐伯だった。
「佐伯さんっ! うそ、うそ、また?またですか?私・・・!」
「うんうん、・・・・ところで何時? 悪いけどもう少し寝させて。俺、今寝かけたとこなんだよ明日説明するから、君も寝てていいから・・・」
そういうと、本当にソファに倒れこんで寝てしまった。 午前五時だった。