青かった日々〜兆し〜-6
「……は?」
一番早くその口を開いた夏美は、まだ梓の言葉の意味が理解できず、二の句が告げない。
その時、大の瞼が何度か瞬く。直人は見逃さなかった。
逃げよう。
大は瞬時に机の横にひっかけてあった鞄を取る。直人も続き、立ち上がった。
しかし、足が動かない。夏美の、もはや殺気ともとれる雰囲気に、二人は完全に萎縮していたのだ。
夏美の目線が二人を捉える。その顔は般若の形相を通り越し、むしろ清々しい笑顔だ。
「大ちゃん、直人。悟史のお見舞い行こう。もちろん遠藤さんも」
その言葉に拒否権は無く、観念した二人は梓と夏美についていく事を了承した。
「……なんだお前ら」
悟史は、アパートに来襲した四人を見るなりそう言葉を発した。
直人の両手には、近所にあるスーパーの袋が提げられている。
その袋をテーブルに置くなり、直人はキラキラとした瞳と百ドルの価値も確実に無いであろう笑顔で、
「鍋しようぜ!」
とサムズアップをした顔に、とりあえず腹が立った悟史は、その左頬に拳をめり込ませた。
「いや、本当に悪い」
直人と大から粗方の事情を聴き、深々と息を吐いた。
女性陣は、キッチンで鍋の下準備をしている。
とりあえず男共はテーブルを囲みながら、女子二人を観察する。
夏美は鼻唄混じりに野菜を刻み、梓はダシをとっている。
「機嫌悪くねえじゃん」
悟史は二人にそう呟くが、大と直人は白けた目を向けるだけで何も言わなかった。