青かった日々〜兆し〜-2
朝、直人に風邪なので休む旨のメールを送った後、悟史は再び布団に寝転んだ。
先程隣に住んでいる中田(なかた)に体温計を借りて測ると、体温計の数値は三十八度オーバーを叩き出した。
数分間天井のシミについての原因を考えていると、扉をノックする音。
いつもより三倍以上時間をかけながら体を起こすと同時に扉が開く。上がってきたのは隣の部屋に住んでいる中田だった。
「帰りに栄養ドリンク、買ってきてやるよ」
悟史の容態を確認すると、中田はそう言って部屋を出る。
引越しを行って初めて挨拶をしたときは、見事なまでのアフロヘアと、顎髭を蓄えた強面に気圧されたが、意外と爽やかな性格だとこの一ヶ月で知った。
途中で同じく様子を見に来た梓と軽く中田の頭について話すと、次いで部屋を出ようとする。
「あ、そうだ」
玄関で靴を履きながら、梓は振り返る。
「帰ってきたら、お粥作ってあげる」
悟史が「頼む」と言うと、梓は微笑みながら部屋を出ていった。
梓と一緒のアパートに住んでからも、特に二人の関係は変わらなかった。
朝は別々にアパートを出て(悟史は遅刻寸前に)、帰りも特に一緒にはならない。
帰ってきてからも、特にお互い部屋を行き来することも無かった。たまに、作りすぎた食事の余りをもらったりすることはあったが。
大家代行である明の気分によって、たまに皆で食事や運動をすることを除けば、些細な変化しかしていない。
悟史も別にそれでよかったが、先程梓に言われた一言が、妙に嬉しく、暫く寝つけなかった。
それから寝ては覚めての繰り返しをしていると、時刻は午後の四時になっていた。
頭の重さはまだ取れず、体温を測り直すと少しは下がったが、未だに七度台を示している。
安っぽい電子音が鳴るのと同時に玄関がノックされた。
梓だろうか。やはりまだしっかりしない足取りでドアの鍵を開ける。
「はあい、弟」
目の前に立っていたのは、一番会いたくない相手だった。