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青かった日々
【青春 恋愛小説】

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青かった日々〜兆し〜-1

桜は散って、葉は緑を濃くし始める、そんな五月のある朝だった。


「悟史の野郎、風邪ひいたらしいぜ」


もはや一限が始まって15分は経っている今、人通りの無い通学路を安っぽいママチャリが走る。

漕いでいるのは直人であり、その後ろには大が座っている。二人にとっては最早日常と呼んで差し支えのない風景である。

大は夏美から来たメールに対してどう返事をしようか迷いながら、直人の話に耳を傾けて。

風が心地よく頬を撫でる。風と風邪をかけたわけではないだろうが、校門が見えてきたあたりで直人はこんなことを口に出した。


「見舞いついでにからかいに行こうぜ」




終鈴が鳴り響き、生徒たちはそれぞれに放課後を楽しむ。

登校後、夏美を誘ったのだが返事はノーだった。どうやら部活が忙しいらしい。

直人はバスケットボール部に、大は文芸部に所属していたが、バスケ部は今日から三日間は自主トレのみ。

文芸部に至っては最早活動自体が自主参加の様なものであり、大は普段こそ参加しているものの、今日に限っては部活より見舞いの方が重要だった。




「オラすっげえわくわくすん」

「僕もだよ」


直人がどこぞの宇宙最強であろう男の台詞を言い切る前に大は言葉を重ねる。

自転車は学校に置いてきており、二人の手にはコンビニの袋。

大が買ったのは栄養ドリンクと風邪薬。直人が買ったのはお菓子と最近発売されたコーヒー風味の炭酸飲料「モカ・コーラ」である。

大にしても飲み合わせが悪く、直人の品に至っては見舞いする気など更々になく、居座る気が満々な品だ。

悟史の住むアパートに向かう間の話題は、ついさっき見た遠藤梓についてだった。


「遠藤さんて、結構人気あるみたい」


なぜ、この話になったのか。

それはコンビニで買い物をする前に、梓がエコバッグをぶら下げながら歩いているのを目撃したからだ。

彼女も大と同じく文芸部なので(大曰く結構真面目に活動している)、何度かは話したこともあった。

いると雰囲気が軽くなる。それが大の抱いた彼女の印象である。

直人は意外な熱弁を奮う大の言葉を右側から聞いて左に受け流す。

途中から坂を上ることになり、大の口数が少なくなり、少しばかり会話が途絶えた頃、二人は目的のアパートに到着した。


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