コンビニ草紙 第十三話-1
第十三話;迷想
カチコチカチコチ…。
二階から規則正しく時計の音が聞こえる。
彼がお店を出て行ってから一時間が経った。
お客さんは今のところ来ない。
もしお客さんが来たら私はどうしたら良いのだろう。
書店でアルバイトの経験もないし、どこに何があるかもよくわかっていない。
お祖父さん、大丈夫だったのかな―。
あの慌て様だとお祖父さんの体調があまり優れないのかもしれない。
そういえばインタビューの時、両親は他界してるって言ってたな。
若くして両方の親がいないなんて大変だったのかな―。
チリリン―。
そんな事をぼんやり考えているとドアベルが鳴った。
「御免下さーい。5時にお約束させて頂いていた藤黄堂の蒔田と申します。お願いし
ていた本を頂きに―」
途中まで言いかけて私の顔をみた男は目を見開いた。
その顔を見た私も心臓が止まりそうになるくらい驚いた。
「…ヒロタカ。」
「……なんでリョウコが此処にいるんだよ。会社、辞めたのか?」
「ま、まさか!留守番頼まれてたのよ。」
「留守番?お前藤本さんと知り合いなのかよ。
…こんな所で会うなんて、本当奇遇だな。」
そう言うとヒロタカは微かに笑みを浮かべた。
広孝とは2年前に別れてから一度も話していない。同業だからたまに名前を耳にした
りする事はあったが、別れてからちゃんと会ったのはこれが初めてだ。
¨お前¨なんて馴れ馴れしい言い方、やめてほしい。
この男のせいで恋をするのが億劫になったと言っても過言ではないからだ。
「…本、取りに来たんでしょ?この包みがそうみたい。」
少しぶっきらぼうに私は包みを指差した。
「え?あぁ…。ありがとう。」
ヒロタカは忘れてたとばかりに包みを抱えた。
「…でも何でお前が此処にいるんだよ。もしかして、付き合ってる…とか。」
相変わらず能天気な考えに呆れさせられる。
「…そんな訳ないでしょ。この前の取材の件でちょっと寄っただけ。そしたら草
士さんが急用が出来て、私が留守番する事になっただけ。」
「…へぇ。下の名前で呼ぶなんて、なんだか親しげだな。」
そうゆう所だけこの男は目敏い。