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脅迫文=恋文?
【コメディ 恋愛小説】

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脅迫文=恋文?-1

1 ラブレターが下駄箱に入ってた。
『オーソドックスな渡し方だな』と、心に僅かに残った冷静な部分が言っていた。逆に残りの心の約八割を占める、冷静さを欠いた部分は暴走しそうになっていた。

もしかして、同じクラスの八木か?最近、仲良いし……。
もしかしたら、学年のアイドルの鈴沢かも!いや、それはないな……、彼氏いるし。

「まぁ、中、見たら解るよな」
この時、俺はまだ、これから起こる災難とも幸運とも取れる事が待っているのを知らなかった。

『脅迫文=恋文?』

「おっ!憲(けん)、なに一人、下駄箱でパントマイムしてんだ?」
後ろから声がかかった。…って、パントマイムしてねぇけど……、しどろもどろはしてたかも。
「……ん、なんだ!?ラブレターもらってんじゃねぇか、てめぇ!!」
うるせぇ…。お前は毎日の様に下駄箱に腐るほど入ってんだろが。
……自己紹介が遅れたな。
俺の名前は太田憲、私立舞阪高校に通う二年生で17歳。名前の由来は簡単だ。五月三日、つまり憲法記念日に産まれたから。間違ってもゴミの日とか言うなよ!!
で、後ろで、自分はラブレターたくさん貰ってる癖に、他人が貰うと羨ましがるという、モテない男達の羨望と敵視を受ける奴は高坂独(ひとり)。
名前の由来は何でも、一人でも生きていける強い男になるようにつけられたらしい。当の本人はいつも大抵、女といるので願いは微妙に達成されてない。
一応、親友ではあるが、たまに縁を切りたくなる事がある。
前にいきなり電話で、『緊急事態だから来い』と言うから行ってみたら、女が二人、独を取り合っていた。文字通りの引っ張り合い。片方は一人の左腕を、もう片方は脚を持っていた。
半ば宙に浮いていた独は空いていた右手で携帯から俺にレスキューを頼んだのだ。
止めに入ったら、腕を持つ女に蹴られた。何でも、ダイエットでキックボクシングしてるらしかった。
で、今度は脚の方の女を説得しようとしたら、投げ飛ばされた。柔道三段らしかった。
結局、レスキューが必要になったのは独じゃなくて、俺だった。
閑話休題。
今は独に関する苦労を思い出してる場合じゃねぇ。大事なのは、俺の右手に握られている恋文だ!
「誰からだよ?」
「うるせぇな。今、開けるっての」
独に急かされながら、震える手で封筒を裏返すと、これまたオーソドックスにハートのシールで留められていた。ふふ〜、これは結構おとなしめの子と見た。
何故か慎重にシールを剥がし、肝心の中身を取りだし、一思いに開いた。
で、目を疑った。何故かって?だって、こう書いてあるんだぜ?
『命令!五時半までは待っててやるから、校庭の端の桜の木の下に来て、私の愛を受け入れろ。でなきゃ殺す(社会的に)。by矢城』

「………………」
「……気の毒に、まさか矢城なんてなぁ。まぁ、まだ美人なだけマシじゃん」
独は俺の肩に手を置いてそう言った後、頑張れよ、と爽やかな顔で帰りやがった。チクショウ。
……話を戻そう。
矢城とは、同じクラスの女子でこの舞阪高校で恐れられている存在だ。かと言って、賢明なる読者諸君が思い浮かべるオーソドックスな不良スタイルじゃない。
髪はすげぇ綺麗な黒だし、肌も真っ白。スタイルだって良いし、勉強は学年トップクラス。もちろん、スポーツ万能。
で、一見完璧で慕われるべきな所を正反対な評価にしている要素は、もう一つしか残ってない。性格だ。
もう、凄まじいの一言に尽きる。
とてつもなく、腹黒いのだ。ちょっとその片鱗を紹介しよう。
まず、弱味を握るのが得意。逆らえない生徒、先生が何人いるか、一度数えてみたい。噂では校長も握られているらしい。まぁ、多分、本人はバレてないと思ってるヅラの事だろう。もしかしたら、別にあるかもしれないけど……。
そして、報復に容赦がない。一度、化学の時間に寝ていた矢城は化学担当の教師・滝沢に叩き起こされた。教科書の角の部分で。
で、次の日、化学室が吹き飛んだ。何でも、ガス漏れだったらしいが、クラスの人間は矢城の仕業だと確信している。もちろん、俺もその中の一人。
矢城、フルネームで呼ぶと矢城白雪(しらゆき)はそんなヤツなのだ。名前と正反対な存在なのである。
そんな矢城に『愛を受け入れろ』なんて言われても(泣)。
独は帰っちまうし……。あの薄情もん、二度と助けてやらぬ!!
「受け入れるにも、断るにも、会うしか……ねぇよなぁ」
時刻は四時半。帰宅部の俺にはこの後の用事はない。矢城以外は。
覚悟を決めて、俺は死地ヘと旅立った。


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