半熟の供物-7
『エヘヘ……可愛いなぁ』
『ほっぺもスベスベだねぇ』
萌「あぁッ!!ちょっとぉ触んないで!!!」
上擦る声を震わせ、髪や頬を触る手を振り払おうと叫ぶ。
少し鼻が赤く染まり、恐怖に怯える瞳は涙で潤む。
『萌ちゃん、さっき悠太からメール来たぜ。見るかぁ?』
男の手にしている携帯は、間違いなく萌のだ。
萌「わ、私のケータイ帰して!!なに勝手に見てるのよ!!」
誰しもプライバシーを覗かれたら、怒りを覚えるもの……ましてや萌のメールは、他人が興味本位で見ていい“文章”ではない。
『そんな怒んなよ……ホラ』
だらし無い笑みを浮かべながら、男は携帯画面を寝転がる萌に見せた。
萌「……ゆ、悠太さん…」
そこには丁寧な言葉で、萌への想いが綴られていた……悠太もまた、萌へ想いを寄せており、恋い焦がれていた事が書かれていた。
『……でも可哀相だよなぁ、この男。せっかく告白したのにフラれるなんてよ』
携帯をブラブラさせながら、けだるく言葉を吐いた。
萌「……ど、どうゆう意味よ……」
表情が強張った……ずっと夢見てきた事が叶うというのに、男はそれを否定した。
『オマエは俺達のモノになったんだよ』
『そうそう、可愛いペットになるんだよぉ』
萌「!!!!」
今まで聞いた言葉の中で、最も汚らしく、吐き気のする言葉……悠太と萌の間には、誰も立ち入る事は出来ない筈。ましてや女性を物や動物扱いするなど……まだ幼い少女には、いや、女性には理解どころか、到底受け入れる事など出来はしない。
『断りメール送ってやるよ〔他に好きな人いるからゴメンね。付き合えないよ〕…はい送信と……』
萌「やめてよ!!アンタなんか関係無い……嫌ぁぁぁぁ!!!」
ヒステリックな叫びの中、送信は終わった。と、直ぐに萌の携帯が鳴った。
悠太からの電話だった。
『フラれて怒ったか?それとも諦めらんなくて電話掛けたか?……どっちにしろ情けないねぇ』
男は携帯を萌の顔の横に置き、笑いながら見下ろした。
萌「ゆ、悠太さん違うの!大好きなの!!……誰か電話繋がせて!!お願い話しさせてえ!!!」
悲しみと怒り、悔しさに、萌の顔は真っ赤に染まり、涙をボロボロと零しながら、鳴りつづける携帯に顔を擦り付けて叫んだ。
『往生際が悪いね……なんだ、また掛けてきたか』
萌「お願いケータイ帰してえ!!悠太さんと話しさせて!!!」
何度電話を切っても、悠太は萌の携帯を鳴らす……怒りの感情だけでなら、ここまで電話は掛けない筈。
悠太の想いは萌と同じ“本物”なのであろう。
『この男には、言っても分かんないだろうな……萌がどんな女か、映像で見せてやるか……撮影開始だな』
鳴り止まない携帯を男は蹴飛ばし、萌の太股を摩った。
裸電球の明かりの届かない部屋の片隅で、携帯は空しくライトを点滅させ、萌の声を欲して鳴りつづけた。