半熟の供物-4
翌日、萌は一枚の手紙を持って学校に向かった。
萌「!!!」
「チャンスだよ、頑張って!萌!!」
人のまばらな下足場に、悠太が一人で内履きに履きかえていた。
彩夢に肩を叩かれ、萌は意を決して駆け出した。
萌「…おは…おはよ」
顔を真っ赤にし、ギクシャクした笑顔を浮かべ、手紙を悠太の胸元に差し出した。
悠太「お、おはよ……コレ、俺に…?」
戸惑いながらも、悠太は手紙を受け取り、開けて中の文章を読んだ。
〔私でよかったら、友達になって下さい〕
【メールアドレス・◎□△☆】
付き合ってとは書いてはいなかった……その程度の言葉なら、何も手紙にしなくても……だが、それが今の萌の精一杯だった。
萌「……あの……」
悠太「…イイよ、てか俺、萌のコト嫌いじゃないし。メアドありがと」
直立不動の萌を残し、悠太は立ち去った。
「……萌…どうだった?」
恐る恐る、小声で話し掛ける。
萌「……嫌いじゃないって……メアドありがとうって………」
力が抜けたようにその場にしゃがみ込み、萌は人目も憚らずに泣いた。
同じ涙でも、昨日のとは違う、晴れやかで美しい涙……。
「どう?うまくいってる?」
萌「うん、まだメル友だけど、悠太ってスゴく面白いの!」
萌にとって、今まで感じた事のない日々を過ごしていた。
憧れの人とメールを交わし、たわいない出来事を共感し笑い合う。それは、至福の時ではあったが、幸せを感じれば感じる程、不安も膨らんでいった。
(自分は彼女になれるのか……?)
メール交換をするようになって数日。
町の並木は電飾で彩られ、クリスマスの浮かれた雰囲気が蔓延していった。
手を繋ぎ、腕を組み、仲良く歩く恋人達がやたらと目につく……そんな光景を見ていた萌は、もう一歩踏み出す勇気を心の中に宿した。
町を徘徊する三台のミニバン。
学校や家の周辺、通学路……萌の行動パターンの殆どは、オヤジ達に知られた。が、萌はなかなか一人にはならなかった。
通学時も、絶えず友人が周りにおり、休日ですら友人が迎えにきてから遊びに行く。
『なかなかチャンスが無いなぁ……』
『あ〜クソ!早く姦りてぇ!』
獲物が目の前にいるのに、全く手が出せない状況に、オヤジ達の苛々は積もった。
『……お、今日は帰りが早いな』
『なんか急いでますなぁ』
この前のように全速力で走って来て、そのまま玄関に飛び込んで行った。
『小便我慢出来なくて走ったんだったりして?』
車内が笑いに包まれ、その十数分後、またも萌が姿を現した。