半熟の供物-3
『ふぅ……焦った。なんか写真より痩せてなかった?』
『ぽっちゃりよりムチムチですかな』
車内はまた興奮状態になった。
口々に萌を賞賛し、旨そうな肉感を語り合う。
『早く楽しみたいですな!』
『まあ、今回は一人だけだし、早目に狩れるだろ』
『行動パターンさえ調べれば、あとは楽勝ですな』
オヤジ達の目が、徐々に血走り始めた。
あの姉妹を追い詰めた時の、あの日の目だ。
『家の場所はもう覚えたよね?一旦帰って、全員で調べてやろうよ』
長髪男の言葉に、“元”首謀者は深く頷き、そして車は来た道を逆走した。
かくして萌の生活は、常に鬼畜達に監視される事になる………。
「ねえ、プレゼントとか買った?」
昼食後の休み時間。
階段の踊り場で、同級生の友人が、萌の顔を覗くように話した。
萌「ん〜……だって私の事、好きかどうか分からないし……彩夢は買ったの?」
「買ったよ〜。何を買ったかは内緒」
中学に入学して半年が過ぎ、あちこちに付き合う男女が出来ていた。
友人の彩夢にも彼氏はおり、正に充実した学校生活を送っていた。
「じゃあさ、萌もケータイ持ってるし、悠太も持ってるし、メアド交換から始めたら?」
萌の切ない想いをよせる男性は、別のクラスの同級生・加藤悠太。初めて見た時から胸の高鳴りを覚えた、いわば一目惚れ。
萌と同じ〈感情〉を持つ女子は多く、それは上級生の中にもいた。男性の内面など見ず、ただ憧れだけで恋愛に発展する幼稚な秘め事……誰もが通る、甘く酸っぱい想い。
「あ、悠太だ。萌、ほらほら」
萌「!!!」
二人の横を、スルリと通り抜け、階段を下りて行った……萌はそれだけで、頭の先から全身に電流が走り、顔は真っ赤に染まり、微動だに出来ない。
萌「……どうしよう…わ、私……」
「ちょ…萌!待ってよ!」
萌はトイレに駆け込み、個室で泣き出してしまった。
他にも可愛い生徒はいっぱいいる。
自分は悠太からどう見えるのか?
自信がない、話し掛ける勇気もない……でも、自分の想いを伝えたい………。
あまりにも切なく苦しく、萌は心の整理すらつけられず、ただただ泣いていた。
「……言わないと、ずっと今のままだよ?好きって言えないなら、友達からでも始めてさぁ」
萌「ヒック…ヒック…うん、うん……ヒック……」
彩夢も、萌の今の気持ちは理解出来る。涙ぐみながら、懸命に萌を励ました……少しずつ、萌の心は前向きになっていった。