半熟の供物-2
『でも、オマエの情報収集力って凄いよな』『本当、本当に凄いですよぉ。あんな可愛い娘を見つけるなんて』
早朝、まだ薄暗い時間。
街を二つ程越え、山も越え……目的地に向かうオヤジ満載のミニバンの車内は、早くも興奮状態になっていた。
『……ま、僕に掛かれば簡単ですよ。実に簡単です』
長髪男は運転しながら、更に得意顔になっていた。
『まだまだ押さえてる娘はいますけどね』
車内はどよめきにも似た溜め息に包まれた。
『ほ、他の娘の写真も見たいですな!』
『お願いしますよ!』
『駄目だね。見たら全員欲しくなるから。少しずつ小出しに……だね』
興奮しているオヤジ達の声に被せ、大声で話す長髪男。
駄目だと言いながらも、その表情は、見せたくて堪らない気持ちを抑えているのがハッキリと分かる。
『ほら、あれが中学校で……この橋を越えて……もう少しだ……この家だ』
少し小さな町外れに中学校があり、大きな川を隔てた数分の場所に、萌の家はあった。
灰色のレンガ調の壁の家。この辺りでは新築の部類に入る、小綺麗な二階建ての家だ。
辺りには畑などもあり、農作業機具を仕舞う小屋なども見える。
既に辺りは明るさを増し、白い息を吐きながらウォーキングをする人や、犬の散歩をする老人の姿も見えた。
『7時30分か……そろそろ通学か?』
農機具小屋に隠れるように車を停め、じっとその家の門を注視するオヤジ達。
『うお?アレか!?アレが萌ちゃんか!』
『イヒ…ヒヒヒ……可愛い……』
顎のラインに沿うように切られた黒髪。
濃紺の学生コートを羽織り、茶色のマフラーを首に巻き、赤茶色の鞄を背負った少女が姿を現し、オヤジ満載のミニバンの方へ歩いてきた。
『通学時は、必ずココの小屋の前を通るんだよね』
またも得意顔になり、鼻息を荒くした。
『た…たまんねえ…』『うわ…うわぁ……可愛いぃ……』
歩を進める度に、コートの中から濃紺色のブレザーがチラリと見えた。
膝下までの同色のスカート。黒いストッキングがオヤジ達の食欲を誘う。
と、突然、萌は走り出した。駆け出すというより全速力で、正に脱兎の如く走っていった。
『な、なんだ!?気付かれたか!?』
車内は動揺に包まれた……が、それは直ぐに安堵に変わった。
萌は、遥か前を歩く同級生を見つけ、そのままぶつかるように肩を叩いた。
そのまま二人はふざけ合いながら、橋を渡り学校まで歩いて行った。