逃げ出しタイッ!?-45
「どうなるの? 私。どうして、どうして先生たち、知ってるの?」
「それは田辺が、その映像を学校に持ってきて……」
「まさか、みんな知ってるの!?」
クラスの隅っこで行われる上映会。
自らのあられもない姿。
精子をかけられ、それを嚥下するようす。
ときに自ら腰を振り、男を絶頂に導く、浅ましく、娼婦のような自分。
「酷いです、もう、私、学校に行けないよ……」
考えれば考えるほど、気持ちを追い詰められる。
今身近に居る誰かにそれを知られなければ、大切な気持ちの先にいるあの人にそれを知られなければ……。
「おい、山形、お前もなにか言うべきことがあるだろ?」
沈黙する数十秒、取り返しのつくことなど何一つなく、それでも張本人からの弁が無いと、後藤が昇にも水を向ける。
「ごめんなさい。その、俺ら、軽い気持ちで……」
「軽い気持ちって、あんた、犯罪なのよ? なんで、そんな、馬鹿な……」
「だって、マネージャーだって、まんざらじゃなかったじゃん」
「なに、言ってるのよ、私、もう、お前らのせいで、学校どころか、町歩くのも、はずかしくって……、う、うぅ、うわぁああああぁん」
反省の色がどのような色なのかは不明だが、彼のそれは鏡のように自らに降りかかる責任を周囲に反射していくらしい。
「お前なあ、自分のしたことの重さを考えてるのか?」
「すいません」
動作として頭を下げ、肩がぶつかったときに反射的に出るような謝罪の言葉を発する昇。
「いやだ……、嫌だ嫌だ嫌だ! 私、学校辞める。もう、二度と、嫌だぁぁああ
あぁっ!」
三秒と形を留めない土下座も途中に、雅美は白鳥を突き飛ばし、ドアへと走り出す。
「あ、おい、宮川!」
走り去る彼女は生徒指導室を出ると同時にドアを閉める。背後で扉にぶつかる音がしようが気にせず、授業中の教室を横目に廊下を走り、階段を落下するように降り、それでも靴を履き替えることは忘れず、息が苦しくなるのも忘れて走った。
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――嫌だ、嫌だよ。もう、やだよ。どうして、私、ばっかり、なんで? 何か悪いことした? ただ、我慢したんだよ? 私、だって、怖いのに、嫌だった、気持ち悪かったのに、泣きたいのはこっちだよ。どうして、あんたたちは気持ちよい思いしたんでしょ? これからも黙ってれば、股ぐらいひらいたよ。なのに、どうして、みんなに教えるの? どうして? 学校行けないよ。恥ずかしくって。卑怯だ。私悪くないもん。なのに、私のほうが、悪者みたいで、みんなから、いじめられてるようなもんじゃない。これじゃあ、さらし者、やりまんとか、いわれて、レイプされたのに、なんで、よ。酷い。酷い、よ。誰か助けて。私、つらい。みんな、同情? 違う。そうじゃない。知らないでいてよ。私の屈辱、私の最悪な初体験、嫌な苦味とか、くさいものとか、全部、どうして、知っちゃうの? 助けてくれなくていいよ。もう、終わったことだしさ。けど、やっぱり、知られたくないよ。隠してたいのに、だから、お願い、隆一君、貴方に、だけは、けど、もう、きっと……
……さよなら。
なのかな?