逃げ出しタイッ!?-43
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黒板には自習の文字。後藤は書き終えるとチョークを置いた。
「……急ですまないが、ちょっと今日は各自プリントを行っていてくれ」
前列の生徒がプリント教壇でプリントを受け取り、後ろへと配る。
雅美もそれに倣い、とりあえず名前を書く。
震えた字で書かれる宮川雅美の川の字はミミズがのたうったようなもの。
今朝の出来事。
隆一はあのまま教室にも戻らず、席は空いたまま。
ホームルームの間も妙なざわめきがあった。
……そして、
「おい、宮川、ちょっと生徒指導室まで来てくれないか?」
「え? あ、はい。わかりました」
後藤の顔は真剣そのもの。というより、汗ばんですらいた。
「みんな、静かに自習してるように」
殴られていたのは悟。
そこに何か引っかかるものがある。
雅美の高鳴る胸には不安以外、何もなかった。
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「先生、どうかしたんですか?」
「あ、あぁ、そうだな。その、とにかく、最初に話だけでも……」
廊下を行く後藤はしきりに額をぬぐい、けして雅美のほうを振り返ろうとせず、話しかけることもしなかった。
――なんだろ? なんか、やな感じ……?
後藤は世界史の教師で、空手の指導を行っている。
そして、陸上部の顧問も勤めている。
それはすなわち……。
生徒指導室のドアが開いたとき、教頭の井上肇、養護教諭の白鳥紀子と見知った二人を見つめ、雅美も理解した。
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「本当にすまなかった」
ドアを閉めると同時に、後藤はおでこを床に叩きつける勢いで土下座をした。
「あ、あ、あ……」
何が起こったのか。というよりは、何が暴かれてしまったのかを理解した雅美は大きく口を開けたまま、二歩後ずさり、壁にもたれかかる。
「宮川君、本当に、なんてお詫びしてよいのやら……」
そしてゆっくりと井上も頭をたれる。
彼もまた、床に伏せ、土下座の格好。
その二人に挟まれる格好で達郎、昇も正座していたが、周りの雰囲気に流されてなのか頭を下げる。
「や、やめてよ……、なんで……」
――ばらしちゃうの?
真実が暴かれた。
おそらく、今朝の出来事も隆一がそれを知ったから。
では、どうして知ることができたのだろうか?
悟が? 昇が?
どんなメリットがあって?
彼らもまた裁かれる側に居るのであれば、自白する理由がない。