逃げ出しタイッ!?-21
――やだよ。悔しい。どうして私ばっかり……。
身に降りかかった不幸を嘆くと目頭が熱くなる。
無理やりなフェラチオ、ザーメンを飲み込んだことまではいい。
たとえ体内で大嫌いな昇のたんぱく質が吸収されようが、それはいつか出て行くもの。一時期の我慢ですむ。
しかし、初めては? 処女膜は?
整形外科ならそれを修復してくれるらしい。
週刊誌の芸能人のうわさにあった。
自分もそれをすればいい。
いつかお金をためて、そうすれば処女に戻れる?
そんなはずがない。
記憶は消すことができないのだ。
特に相手の記憶。
自分の処女を奪い、ともに恍惚を味わった田辺悟。
いがぐり頭のアイツだけは赦せない。
笑いながら、うめきながら人の身体を蹂躙し、頼んでもいない快感をくれた相手。
――赦せない。
しかし、
――ごめんね、隆一君。私、汚くなって……。
一番赦せないのは汚された自分。
雅美は枕を抱くと、もう一度きれいなだったころの自分を思い出そうと目を瞑った。
*―*
「おはよー」
朝、いつものように誰もいない食卓に元気よく挨拶をする雅美。
いつものように八枚スライスのパンを二枚トースターに入れ、ハムと卵を焼く。野菜はジュースとレタス二枚にマヨネーズをかけるだけ。女子高生の朝食としてはエネルギーが不足しがちなメニューだが、お弁当箱は二つ用意しており、両方にご飯と昨日の惣菜の残りをつめる。
「あ、おねえちゃんずるいよ。私も食べようと思ってたのにぃ」
妹の宮川智美は今年受験生の中学三年生。まだ発達途上にして幼い身体付きの彼女は、それを補うためなのか、最近食欲が旺盛だ。
「何いってるのよ。早い者勝ちでしょ?」
そう言ってそそくさとお昼用とおやつ用の二つのお弁当を準備する雅美は、焼きあがったトーストにハムエッグ、レタスをはさんで「いただきまーす」と元気良く頬張る。
「もう、おねちゃんのイジワル」
そういいながらも智美はグラスを二つ用意して牛乳を注ぐ。
「お、ありがとう。マイシスター」
何をいっても仲の良い姉妹なのだった。
*−*
あわただしい朝を急かしたのは、気持ちが追いつかないようにわざとのこと。
もし、もたついて父や母に「学校は」や「もう身体は平気?」などと聞かれたら揺らいでしまいそうで怖かった。それこそ妹の牛乳ですら負担に感じるほど。
――大丈夫。もう大丈夫。うん、部活はやめて、そんで、もう……、んーん、絶対に負けないんだから……。
自転車を立ちこぎして坂道を下る。そのスピードは十分危険な速度だが、今の彼女にそんな心配もない。