逃げ出しタイッ!?-11
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部活が終わるのは大体五時半。そのあとは着替えだなんだといって大体六時に終わ
る。
その日も似たようなものだった。
だから雅美はその時間帯まで道場へと行っていた。
理由は当然……。
――もう居ないよね? うん、大丈夫。
もう二度と足を踏み入れたくないのだが、変化に気づかれることが一番危険だと、
雅美は冷静を装っていた。
――あーあ、散らかして。片付ける身にもなってよね。ほんと。
手近にあった箒を手に、簡単に部室を掃く。もっともちりとりが見当たらないので、ごみを壁際に寄せただけにしかならない。
――さあさ、帰ろ帰ろ。
自然を装うもおのずと動作が速くなる。
よく見ればロッカーの小脇に青色のプラスチックのちりとりがある。けれど無視。
ジャージの上着を脱いでハンガーに干そうとするが、どうしてかうまくいかない。
何度も肩がはずれ、情けない前傾姿勢をするジャージ。
――なにしてるのよ、あほらし。さ、て、と、早く、しないと……。
焦る気持ちがズボンの結び目を解かせてくれない。何度も失敗し、逆に硬結びにしてしまい、余計に焦る。
「もう、こんなときに、あたしは忙しいの!」
思わず声に出すも、スケジュールは白紙。そして……、
「マネージャー、忙しいんだ」
聞きなれない声に振り返ると、窓がガラガラと開き、短髪頭の男子が顔を見せる。
――誰だっけ? 知らない。っていうか、転校生?
数日というほども経っていないものの、一学年だけで数百人と居る山陽高校では転校生の一人、よっぽどのことがない限り覚えているはずもない。
「え、えと、田辺君だっけ? あのさ、あたし今から着替えるから、そこ閉めてくれない?」
Tシャツならきっとブラが透けているだろう。確か今日は黄色いブラだったから、かすかに見えるはず。
「ああ、悪い悪い。気がつかなかった」
そういうと悟は窓を閉め、その後走り去る音が聞こえた。
――ふう、驚いた。
妙な緊張のせいで詰まっていた息を大きく吐き出す。
少し落ち着いたのだろうか、結び目も解けするするとジャージが落ち、そのままスパッツのみになる。
――なんか変な汗かいちゃったみたい。
いつもならスカートとスパッツを併用している。どうせ帰り道なのだし、おしゃれと相談する必要も無いのだと言い聞かせて。
けれど、今日は着ていたくなかった。
スカートを履いてからにすればよいものを、なぜか強行な気持ちが先走り、スパッツを脱ぎ捨て、ブラとおそろいの黄色いショーツ姿を見せる。
――あたし、何してるんだろ?
冷静を装う自分といらだつ自分。そのどちらに従えばよいのか、そのどちらかが主導権を握ってくれたらどんなに楽なのかと思いつつ、ロッカーからスカートを取り出す。