やっぱすっきゃねん！Ⅲ⑭-15
（やっぱりな…）
２球目。バッターは、内角から外に逃げるスライダーをかろうじて当てた。
勢いの無い打球がショートに点々とする。秋川は、前にダッシュして素手でボールを掴んだ。が、バッターは頭から１塁に飛び込んでいた。
（ノーアウトのランナーか。まずいな…）
永井が顔を曇らせる。
「勝負どころだな…」
一哉は、身体を背もたれに預けて行く末を見守っていた。
続くバッターは、あっさりと送りバントを決めてランナーを２塁に進めた。
ここから、３番、４番、５番の強打者が相手だ。
「タイムッ！」
永井がタイムを取る。伝令の直也がマウンドに向かうと、内野手全員が稲森の周りに集まった。
「３番を歩かせて、左の４番、５番で勝負だそうだ」
直也の言葉に、内野手全員が戸惑いの表情を向けた。
「しかし、仮に長打になったら、逆転されるぞ」
「大丈夫だ。４番、５番はタイミングが合っていない」
マウンドの輪が解けた。直也はベンチに戻り、フェンスから身を乗り出す。
（上手くやれよ。ここが踏ん張りどころだ…）
３番を歩かせ、１アウト、ランナー２塁、１塁。
内野手は定位置より後方に着く。ダブルプレー体制だ。
その初球。真ん中から外角へのスライダーを４番は叩いた。
打球はセカンドゴロ。狙い通りの展開に、稲森は思わず笑みを漏らした。
しかし、セカンド森尾から２塁への送球がコンマ数秒遅れた。秋川が２塁に入るタイミングが遅かったのだ。
慌ててリカバーしようとする秋川。ボールの握りが甘かったのだろう。
「うわッ！」
ボールはファースト一ノ瀬の遥か上を飛んでいった。
青葉中がもたつく間、２塁ランナーはホームを駆け抜けた。
内野安打１本で同点に追い付かれてしまった。
調子も悪いながらも、芦屋中を抑えていた稲森はショックを隠しきれない。
何とか後続を断って逆転は免れたが、これ以上、投げることは無理だった。
（どうしたものかな…）
青葉中は、ノーアウトのランナーを３度も出しながら、得点出来たのは１度だけ。方や芦屋中は、エラー絡みで同点に追い付いてきた。
永井は、悪い流れを断ち切るためギャンブルを試みる。
「稲森、交替だ。よく２点で抑えてくれたな」
再び組まれた円陣の中、永井は稲森を労うと、
「ここからが勝負だ。試合内容はウチが勝ってる、あと２回、あと２回に全部を出せッ！」
選手を鼓舞した。
先頭は佳代から。まず、ランナーで出るのが先決だ。
（投球数は８０球を超えている。変化球狙いだ）
ヤマをはる佳代。その初球、対するボールは思惑と異なる外角低めの真っ直ぐ。
しかし、身体は反応した。右手だけでバットを振ると、打球はレフト前に落ちた。