投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

やっぱすっきゃねん!
【スポーツ その他小説】

やっぱすっきゃねん!の最初へ やっぱすっきゃねん! 421 やっぱすっきゃねん! 423 やっぱすっきゃねん!の最後へ

やっぱすっきゃねん!VM-16

 先頭打者が出た。
 永井は、3度目のサインを送ると、

「直也、代打で行くぞッ」

 ひとりしかいないファースト一ノ瀬を引っ込め、直也で勝負に出る。
 乾は、7球粘ってセカンドゴロを打った。佳代は足を生かして2塁へ進塁する。
 永井は直ちに直也を送った。

 球場アナウンスが“代打、川口”を告げた。
 1塁側スタンドから歓声と拍手が沸き上がる。

(こんな、しびれるような場面に使ってもらえるなんて…)

 直也は期待に応えたい思いで打席に入った。

 当然、芦屋中は直也のデータを持っている。達也と同じく、チャンスに強いバッターだと。
 キャッチャーは際どいコースを要求するが、指先に余計な力みが入ってストライクが取れない。
 カウントは3ボール。直也は打席を外して永井を見た。
 サインは無い。ただ、バットを振る仕草を繰り返すだけだ。

(ヒッティングか…)

 打席に戻り、バットを短く握った。
 キャッチャーは真っ直ぐのサインを出して、真ん中にミットを構えた。
 4球目が投げられた。ボールは真ん中低め。直也は、力負けしないようコンパクトな振りからバットをぶつけた。
 手の衝撃は、長打を予感させるのに十分だった。

 レフトとセンターの間、左中間に速い打球が飛んだ。
 2塁ランナーの佳代は優々とホームへ。打った直也も2塁に達していた。

 再びリードを奪い返し、活気づく青葉中ベンチ。ハイタッチの出迎えを受けた佳代は、ヘルメットを取ると、近くにいた秋川の傍に寄った。

「これでウチが勝ったらさ、直也がヒーローになるよね?」
「だろうな…」

 秋川は試合に集中してるのか、佳代の話に興味を示さない。
「それって悔しいじゃないッ。こっちだって何度も出塁してんのに、たった1打席でヒーローなんて」

 この時、秋川は初めて佳代を見た。そして笑った。

「おまえの話聞いてると、直也をライバル視してるみたいだな」
「そうよッ。アイツ、小学校の時、わたしに“女が野球なんかやるなッ!”って云ったんだからッ」

 秋川は声を出して笑った後、急に真面目な顔になった。

「アイツはそういう星の下に生まれたのさ。ヒット1本でヒーローになれるヤツ、方やオレみたいに努力しても、肝心の試合でエラーするヤツもいるのさ」
 そう云うと、力無く笑った。

 打席には4番達也。キャッチャーは際どいコースにミットを構える。
 ピッチャーは、セットポジションから左足を上げた。

 その瞬間、直也のスパイクが地面を蹴った。
 初球、外のスライダーを達也は見送った。キャッチャーは慌ててサードに投げようとしたが、直也はすでに滑り込んでいた。


やっぱすっきゃねん!の最初へ やっぱすっきゃねん! 421 やっぱすっきゃねん! 423 やっぱすっきゃねん!の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前