やっぱすっきゃねん！Ⅲ⑭-10
最高のスタートを切った青葉中。攻撃では先取点を奪い、守備では達也のリードで素晴らしい立ち上がりを見せた。
そして２回の攻撃。芦屋中のピッチャーも立ち直りをみせ、３者凡退に切って取ると、青葉中も負けじと点を与えない。
「おいッ、集まれ」
３回表。永井はリードしながらもベンチ前で円陣を組んだ。
「リードしているが、相手は昨年のベスト８だ。２点なんざ、１チャンスでひっくり返されるぞッ」
選手たちも分かってはいるが、改めて云われることで気持ちを引き締めた。
永井なりに考えた人心掌握術だ。
「ひと回りして、ある程度の傾向は掴んだだろう。なんとか追加点を奪うんだッ」
円陣が解けた。先頭の佳代は、数回素振りをして左打席に入った。
円陣を見た芦屋中バッテリーは、何か仕掛けてくると感じている。
キャッチャーがサインを出す。ピッチャーは頷き、ワインドアップから左足を上げた。
佳代は素早くバントの構えを見せた。
途端にファーストとサードがホームへダッシュする。
ピッチャーが投げたボールは内角高め。佳代は慌ててバットを引いた。
判定はボール。だが、ファーストとサードの俊敏性を確認するには絶好の機会だった。
２球目を待つ佳代。ピッチャーは内角低めに投げた。
（きたッ！）
大きなステップからバットを出した。が、ボールは途中から、さらに内にスライドする。
「くッ！」
佳代は右肩の開らきを遅らせて、左腕で強くバットを押し込んだ。
鈍い金属音とともに、打球はフラフラとショートの頭上へ飛んだ。
「行けェッ！」
打球が間に落ちるのを願い、佳代は１塁へ駆けて行く。ショートは背走で追ったが、わずかに届かなかった。
「ヨシッ、出た」
１回以来のノーアウトのランナー。永井はすぐに佳代と乾にサインを送った。
（送りバントか…）
ピッチャーから視線を外さず、ベースから２．５メートルほどリードを取る。乾は早くもバントの構えをみせている。
ピッチャーは、セットポジションから佳代の動きを警戒する。
（さあ、投げてこい）
爪先に力が入る。
ピッチャーの右足がプレートを離れた。佳代はスパイクの爪で地面を蹴った。
牽制球をファーストが掴む。一瞬の差で、佳代の手がベースに触れた。
「ふえ～ッ、危なかったァ」
泥の付いたユニフォームを手で払い、再びリードを試みる。