やっぱすっきゃねん！Ⅲ⑭-11
（さっき牽制の瞬間、右足の踵がわずかに浮いた…）
相手のクセを掴んだ佳代は、次の投球で早めに出ようと考えた。
ピッチャーがセットポジションに構える。踵が浮かない。徐々にリードを拡げ、左足に重心がかかった。
（せえの…）
まさに走ろうとした瞬間、ピッチャーの右足がプレートから外れた。
「うそッ！」
牽制球が来た。
バックが一瞬、遅れた。
慌てて１塁へ飛び込むが、ファーストのタッチの方が早かった。
「アウトッ！」
１塁々審が右手を突き出した。牽制アウトだ。
「くそッ、騙されたあッ！」
スゴスゴとベンチへ戻ると、案の定、直也の怒声が待っていた。
「何やってんだよッ！せっかくのチャンスを」
「…ごめん。クセを逆に利用された…」
いつもは反撃するのだが、今回ばかりは誤りを認めるしかない。素直に頭を下げると、不手際を永井に報告する。
佳代の言葉に、永井は小さく頷く。
「まあ、データが少なかったからな。皆に伝えておけ」
「はいッ」
その後、乾、一ノ瀬は凡打に倒れ、結局は３人で攻撃を終えた。
永井の中でイヤな予感がした。野球では、他愛のないきっかけで流れが変わることが多々あるからだ。
３回裏、芦屋中の打順は７番から。投球練習の後、達也はマウンドに歩み寄る。
「打順は下位だから、真っ直ぐで押して行こう」
「分かった」
「但し、コーナーを丁寧にな」
達也は笑みを浮かべ、稲森の尻をポンと叩くとマウンドを降りていった。
思惑は当たってた。腕の振りが良くなったと感じ、真っ直ぐを使うと７番、８番は三振に喫した。
２アウトを取り、９番バッターが左打席に入った。真っ直ぐに対応するため、バットをかなり短く握っている。
（まずは外から…）
サインはカーブ。真っ直ぐ狙いのタイミングを外そうという考えだ。
初球。狙い通り、バッターは緩いボールに身体が対応出来ずに前のめりになった。
力無く当てたバットから、サードに向かってボールが転がった。
サード乾はダッシュして捕りに行く。
「アッ！」
ボールを捕ろうした時、グランドに出来た窪みがバウンドを変え、グラブをすり抜けた。
「くそッ！」
捕れなかった自分に腹が立つ。２アウトからランナーを出してしまった。