忘れ星-1
《あの星にね、忘れたい人の名前を言うとね、ホントに忘れられるんだってさ》
幼い頃、大好きだった母を亡くした時、ちいちゃんがそんな事を教えてくれた
僕はそんな迷信を信じこんで母の名前を言おうとした
すると、ちいちゃんは僕の口を手で塞いで
「言っちゃダメだよ。まー君はお母さんを忘れちゃダメなんだから……ねっ」
そう言った
そのちいちゃんが、今度結婚する事になった。
まだちいちゃんは18歳だったが、両親をなんとか説得させたらしく、ちいちゃんは見知らぬ誰かのものになる
僕はちいちゃんが好きだった
母が亡くなってから、週に一度は家に来てくれた
12歳の誕生日の日にマフラーをプレゼントしてくれた
中学の修学旅行の日だって、僕が一人にならないように、一緒の班になってくれた
高校は別々だったが、僕のくだらない相談に、いつも親身になって聞いてくれた
思えば、弱い僕のために、ちいちゃんはいつも自分の人生を犠牲にしていた
僕がもう少し男らしかったら、、、
もう少し強くなれたなら
そしたらきっと、ちいちゃんは僕のために貴重な青春を無駄にする事はなかった
高一の夏、僕は一度だけちいちゃんに自分の気持ちを伝えたことがあった
「ちいちゃん、俺な……俺な、ちいちゃんがずっと好きだった。」
その時は、焦りすぎて自分がちゃんと言えたのかすら解らなかった。
「…………えっ」
ちいちゃんは自分に何が起きたのか解らないように、きょとんとしていた
何故こんな告白をしてしまったのか。。
ちいちゃんに最近彼氏ができた事を人づてに聞いていた。なのに………いや、だから言ったんだ。
手遅れだってことは解っていた。
理由があるとするなら、この言葉をただ、言いたかったんだ
「だ、だから…その…大好きなちいちゃんのために、俺、ちいちゃんを卒業する。今まで、ありがとうな。頼ってばっかりで、ごめん。」
その言葉を言った後、しばらく沈黙の時間が続いた。
5分くらいして、ちいちゃんの方から口を開いた。
「ダメやんか……。女の子こんなに黙らせて……。そんなんじゃ、ちゃんと、卒業なんてできないよ。」
僕は本気で泣きそうになった。