隷従一 白日夢 第四章:再びのミドリ編-4
「あぁ、あぁ、せんせいぃ。」
ミドリの嬌声が合図であるかのように、俺はミドリを湯船の中に放り込んだ。
お尻からバスタブに落ちたミドリは、慌ててバスタブの縁に手を置いた。
仁王立ちの俺に、ミドリは恐怖感を感じているらしい。
先夜の俺とは全く違う仕打ちに、戸惑いの表情がありありと浮かんでいる。
どう対処していいものか、考えあぐねているようだ。
それはそうだろう。
俺にしてから、何故こんな仕打ちをするのか分からないのだ。
憎しみにも似た感情が、渦巻いているのだ。
ミドリに腹を立てているのではない。
ミドリが憎いのではない。
この二三日の間、得体の知れぬ怒りの気持ちが湧いているのだ。
確かに、昨日編集の田坂と口論はした。
いや、あの女=のぶこの事からではない。
あの件については、田坂は何も知らない。
それどころか、感謝の電話がかかってきたということだった。
「又治療に伺いたいので、その折りはよろしくお願いしたい。」
と、言ってきたという。
だから、初めは和やかに話をしていたのだ。
その後の話で、口論となったのだ。
「最近おかしいですね、先生。
パワーが落ちてます。
禁欲状態でないと、先生はだめなんです。
少し遊びすぎでは・・。」
俺にしてみれば、前にも増して勢いが増していると感じているのに、だ。
確かに内容的には勢いを感じはするし、読者からの反応も良い、と言う。
しかし、田坂には“独りよがり”を感じると言うのだ。
俺は、反論した。
独りよがりで何が悪い。
しかも読者の反応も良いと言うのなら、何が不満なのか、と。
田坂に言わせると、危うさを感じると言うのだ。
猟奇的な危うさを感じる、と。
俺の精神状態が心配だ、と。
「余計な世話だ!」
と、一喝した俺だが、・・。
確かに、おかしい。
俺自身が、一番分かっていることだ。
田坂には感謝こそしても、怒鳴るべきものではないかもしれない。
俺のことを一番心配してくれるのは、田坂だけなのだ。
それにしても、間の悪い時にミドリも来たものだ。
俺自身に向けるべき怒りを、一身に受けている。
分かってはいるが、どうにも止まらない。
怯えの表情を見せるミドリが、俺の怒りを増幅させてしまうのだ。