所謂恋愛喜劇2-6
そんな二人の居る倉庫から、少し離れた場所。
「おやびん、大丈夫でヤンスか?」
聖に肩を貸しているパシリが、聖を見上げて言う。
「ああ…問題ねェ。……勝負にも負けちまッたし、奴には褒美でもやンねェとな」
聖は学ランのポケットから封筒を取り出して、パシリへと手渡す。
「金城、これを武に渡しとけ」
番カラを目で指し、聖は言う。
「これは…なんでヤンス?」
封筒を受け取ったパシリ…もとい金城は、封筒をしげしげと見つめながら尋ねた。
「住み込みバイトの、紹介状と地図だ。これがありゃ、アイツも残れンだろ」
何故そんなものを聖が持っているのか。それはやはりロマンスの神様にでも聞いて頂きたい。まぁ、ロマンスの神様は迷惑がるだろうが。
「勝っても負けても、渡すつもりだったんでヤンしょ?おやびんも素直じゃないで…」
「黙ってさッさと行けッ!」
「…はい」
聖は笑う金城を黙らせると、追い立てる。
尻に火が付いたような勢いで走ってゆく金城を見送りつつ、番カラが口を開いた。
「兄キ。なんでそこまでするんじゃ?」
その問いを受け、聖はふっと笑う。
「一度ならず二度までも、勝ち逃げなンてさせてたまるかよ。…それに」
「それに?」
「ヒーローとヒロインに待ッてンのはハッピーエンドッて、相場が決まッてんだよ」
言い終えた聖は、倉庫の方を振り返って、呟く。
「フン……精々幸せにな。お二人サンよ…」
その時だった。倉庫の方から、茜か武か…もしくは両方の、歓喜の声が聞こえてきたのは。そしてその声を背に受け、聖は倉庫を後にしたのだった。