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所謂恋愛喜劇
【コメディ 恋愛小説】

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所謂恋愛喜劇2-2

(………武君、今日も来ないのかなぁ……)
 ため息をついて、茜は空いている隣の席を見つめる。武が、本来居るべき場所だ。
あの弁当事件以来、武は学校を休んでいた。
(………どうしたんだろ……)
「……はぁ……」
 ため息が、止まらなかった。
「どうしたのよ茜?ため息ばっかりついちゃって…らしくないよ」
 そんな茜を見かねたか、女友達が声をかけて来る。
「え?…うん……」
 明らかに、覇気の無い返事をする茜。
「ははぁ〜〜ん、都築君が居ないからでしょ?心配なんだ?」
 意地悪い笑みを浮かべながら、女友達が言う。
「…え?」
 意外そうに、茜は聞き返す。
「………ち、違うよっ……誰が、あんな人の作ったお弁当を食べもしないヤツの事……」
 そして少し間を置いて、ぷぅっとむくれた。
その表情を見ると、女友達はさもおかしそうに笑う。
「って事は、二人の関係は、お弁当作っちゃう所までいってる訳だ」
「か、関係って………私と武君は友達だよぅ……」
 手をぶんぶん振って、茜は必死に否定する。
だがそれも、女友達の笑いを増幅させるだけだ。
「あんたって、本当コドモだよねぇ…何かあるでしょ?友情じゃなくて…さ」
 『ぴしっ』と、女友達は茜の額を弾く。
「あぅっ!……もぉ…」
 茜が抗議しようとしたその時。
「あい、席に着け〜。ホームルーム始めっぞ〜〜」
 担任の教師が入ってきて、女友達との会話はそこで終了した。


 昼休み。
茜は、何とはなしに屋上まで来ていた。
と、そこに、見知った人影があるのに気付く。
「………武…君……?」
 そっと、その名を呟く。
フェンスにもたれかかるようにしていた武は、そっと振り向いた。
「ん……?茜か……久しぶり」
 軽く手を上げて、武は笑う。しかし、その顔は何処か憂いを帯びていた。
茜はそんな武の顔を見て、問い詰めるのも忘れてどきりとしてしまう。
「四限くらいに学校きたから、せっかくだしサボってたんだが…もう昼みてぇだな」
 言って軽く頭を掻くと、武は思い出したように何かを鞄から取り出す。
「そうだ、これ返しておかないとな」
 ぽいと、武が何かを投げ、茜は慌ててそれを受け取った。
見れば、茜が武に渡していた弁当箱だ。きちんと、洗われている。
「…………コレ……」
 呆然と、茜は呟いた。
「…食べて…くれたの……?」
 その問いに、こくりと武は頷く。
「………ありがとう……」
 瞳に涙を浮かべつつ、茜はにっこり笑った。
「礼なんかいらねぇだろ。こっちが作って貰ったんだしよ」
 にっと、照れくさそうに武も笑う。
「あはは、そうだねっ……それで、味は」
「おっと、ああ、そうだ、言っとかなきゃいけねぇ事があるんだ」
 茜の言葉を遮るように、武が慌てて言った。やや不自然である。
「……?」
 怪訝そうに、こっくりと茜が首を傾げた。
言い難そうに視線を逸らす武。
しかしやがて意を決したように茜を見据えると、武は言葉を紡ぐ。
「実は………俺、転校すんだ」
「え……?」
 いきなりだった。
予想もしなかった言葉に、思わず茜は固まってしまう。
「ホントは弁当の時に言っとくつもりだったんだが、あんな事になっちまって…すまんな」
 少しうつむき加減に、武が謝る。
しかしその言葉は、茜の耳には入ってこない。
「うそ………冗談、でしょ?」
 武が居なくなる。そう考えると急に、胸が潰されるような苦しさに襲われた。
「…ホントだ。出発は明日。一人暮らしさせられる程裕福なワケでもねぇし、バイトも探してみたんだけど見つかんなかった。また、親についてかなきゃなんねぇ……すまない」
 重ねて、武は謝る。
茜はいやいやをするように、あとずさる。
いや、よろめいたと言った方が正しいかもしれない。
「な…なんで……なんでもっと早く言ってくれないのっ!?いきなり明日だなんて……急すぎるよぉっっ!」
 武を睨みつけ、茜は怒鳴った。その瞳からは、涙が溢れ出している。
「……………」
 武は、黙って茜の視線から目を逸らした。
言える訳が無かった。
茜の弁当を完食してのち、意識不明に陥っている所を偶然屋上にやってきた学生に発見されて救急車を呼んでもらい、更にどこの病院でも手に余るとたらい回しにされた挙句、とある一人の天才外科医(モグリ)に治療してもらってようやく一命をとり止めたなどと。
繰り返すが、言える訳が無かった。
そして、『普通その場合は内科の領分だろ?』と思った方。
天才外科医(モグリ)に治せぬ病気はないのだ。


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