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所謂恋愛喜劇
【コメディ 恋愛小説】

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所謂恋愛喜劇-4

 茜は持っていた弁当の包みを開いていく。
武も、吊られていないほうの手で器用に持ってきていた弁当包みを開き……
「どわぁっ!」
 突然、悲鳴を上げる。
「きゃっ!?何、どうしたの!?」
 茜はびくっとしてすぐ、悲鳴の原因を尋ねる。
「………」
 その問いに、武は目で自分の弁当を指した。
「ぁゃ〜……」
 思わず固まる茜。
武の弁当は、ぐちゃぐちゃになっていた。それは中身だけを指しているのではない。
弁当の容器すらもが砕け、おかずや白米と身分違いなハーモニーを醸し出していた。
さしずめスクランブル弁当といった所である。
「……今朝の…あれが原因だな……」
 ため息も出ないといった感じで、武は呟く。どこか哀愁すら漂っていた。
いつもなら此処で烈火の如く怒り出す彼だが、今回はその気力もないようだ。
少し前まで、身体全体が弁当を心待ちにしていたのだから、無理も無いだろう。
「…あの…良かったらあたしの、食べる?」
 さすがに見ていられなかったか、茜がそう提案する。
「いいのかっ!?」
 途端に、先ほどまでの哀愁はどこへやら、物凄い食いつきを見せる武。
もはや、食欲むき出しである。やはり、男はみんな狼のようだ。
「だって…それ、あたしの所為だし、ね。」
 言いつつ、茜は弁当の蓋におかずと御飯をよそる。
「すまねぇっ、恩に着るっ!」
 涙をどばどば流しそうな勢いで言うと、無事だった箸でそれにがっつき始めた。
そもそも自分の弁当を壊す原因が何だったのか、完璧に忘れている。
それを呆れたような目で見ながら、水筒から注いだお茶を飲む茜。
「もう…食べ方が汚いなぁ……」
 トースターくわえながら走る女に言われたくない。
「うぐっ!!」
 その時、突然武がくぐもった声を上げる。
どうやら喉に詰まったらしい。やはり飲み物無しの米はきつい。
「はい、お茶っ!」
 慌てて、茜はお茶を差し出す。それを引ったくり、武はごきゅごきゅと飲み干した。
その背中をさする茜。
「っっはぁ〜〜〜〜、死ぬかと思った……」
 トラックに撥ねられて死なない人間が言う。呼吸器系が弱点なのだろうか。
「もう、がっつくからだよ……取ったりしないんだから、落ち着いて食べればいいのに…」
 言って、茜は自分の分の弁当を食べ、茶を飲む。
それを先ほど武が使った事など気付いていない。
「あ、それ……」
 一方、気付いた風の武。
「え?って……あ」
 ようやく、茜も気付いたようだ。今から驚くには、タイムラグがありすぎる。
「は、はははは…」「え、えへへへ…」
 とりあえず、不可抗力という事になったらしい。
二人は派手な言い合いをせず、顔を見合わせて照れたような笑いを浮かべるに留まった。


 食事を終え、茜と武は一息ついていた。
春のうららかな日差しを浴び、のどかなひと時だ。
「はぁ……お前と居て、こんなにのどかな時間が過ごせるとは…」
 日常の幸せを噛み締めるがごとく、武は言った。
「ぷっ……何よそれ……」
 その様子が余りにも幸せそうで、茜は思わず笑ってしまう。
いい雰囲気だった。
春の日差しが、冷たい二人の空気までも溶かすようである。
いや、もともと二人の空気は白熱しまくっていたが。
「そういや、お前何しに来たんだっけ?」
 思い出したように、武が尋ねる。
「え?」
「だから、屋上に。理由聞いて無かったよな?」
「ああ、それね……」
 今更、謝りに来たとも言い難いが、今がチャンスのようにも茜には思えた。
「そう言う都築君はどうなのよ?何で屋上来たの?」
 やっぱり言い難くて、聞き返してしまった。乙女心は複雑である。
「俺か?俺は友達居ねぇからな。人の少なそうな所に来ただけだ。」
 あっけらかんと、武は答える。
ここで暗く答えれば根暗確定だったが、武はそうでもないらしい。
「やっぱり……その怪我の所為…?」
 控えめに、茜は聞く。
包帯だらけなんて格好でなければ、武は結構人受けする容姿をしているのだ。
「んや…俺は親の都合で引越しが多くてな。どうせダチなんて作ってもすぐ引越しだ。はなから、作ろうとも思わねぇよ。」
 笑いながら、武はごろんと寝転がる。
「そっか……」
 なんとなくしんみりしてしまい、茜は考え込んでしまう。


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