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所謂恋愛喜劇
【コメディ 恋愛小説】

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所謂恋愛喜劇-3

 退屈な二限目、物理の授業中。
片っ端から判らない事だらけの茜は、必死に教師の話を理解しようと板書をノートに写し取っていた。……と、ふと隣の武が目に入る。
武はノートも取らず、ただぼうっと教師の話を聞いているようだ。
まぁ、転校初日らしく教科書も持っていないのだが。
ちなみに、壊れた椅子は新しいものに取り替えてもらってある。
落ち着いて見れば、武はカッコイイ部類に入った。
黒い短髪もサラサラしているし、包帯から覗く目鼻立ちも整っている。
ギプスや包帯さえなければ、断然クラスの印象も違ったろうに。
そこまで考えて茜は、その包帯は自分の所為だと思い出す。
(悪いこと、しちゃったな……)
 ちくりと、心が痛んだ。
と、茜からの視線に気付いたのか、武が彼女の方を向いた。
「……なんだよ、クラッシャー」
 心底迷惑そうに、武が小声で言ってくる。
どうやら『クラッシャー』というのは、茜の事のようだ。
その声を聞いた瞬間、先ほどまであった罪悪感はあっさり消えた。
「何よっ、そのクラッシャーってっ」
 茜も、小声で言い返す。
「そうだろうがっ、いきなり人を吹っ飛ばすわ、鞄で殴るわ……クラッシャーが嫌ならデストロイヤーにしてやろうかっ?この暴力おんゴフッ!」
「なんですってぇぇえええ!?」
 武の言葉は最後まで続かない。
茜が立ち上がり、武の方へと身体を向けた時に振り回した拳が、武の顔面を捉えていた。
「誰が暴力女よっ!もう一度言ってみっ………あれ?」
 そこでやっと、茜は武が机に突っ伏しているのに気が付いた。
当たった手は痛くなかったのだろうか。
「『あれ?』じゃねぇんだよっ!お前は一体どれだけ人をこけに…」
 机に『バンッ!』と手を突き、武が復活した。
「……そこ…静かに………」
 その時だった。物理教師の疲れたような、呆れたような声が聞こえてきたのは。
『……はい』
 とりあえずその場は、二人すごすごと席に戻ったのだった。
…………。
………。
……。
 それからというもの、茜と武の二人は昼休みまで、毎時間、毎休憩時間いがみ合った。
そして昼休み。
茜は、グループの女子と共に廊下を歩いていた。
と、偶然、屋上に向かう武の姿を見つける。
「ゴメンっ、ちょっと今日はパス!」
 軽く手を合わせて女友達に言い、茜は武の後を追って屋上に向かう。
今度こそは、謝ろうと思ったのだ。
ぱたぱたと階段を駆け上がり、屋上のドアを開ける。
そこに居たのは、松葉杖を放り出して大の字で寝そべっている武。
春先のうららかな日差しがあるとはいえ、屋上で昼食を食べる人は少ない。
いくつかのグループが点在しているだけだ。
その中を、茜は武に近づいていく。
どうやら熟睡しているらしく、茜に気付く様子は無い。
武も先ほど屋上に来たばかりだと思うのだが…余程寝付きが良いと見える。
それとも単に怪我を癒すために身体が睡眠を欲しているのか…
茜が傍に立っても、起きる気配は全く無し。
「………ふぅ」
 ため息を一つついて、茜はその場に腰を下ろす。
風が、二人を撫でて行く。
「……起きないなぁ……」
 なんとなく退屈になって、茜は武の顔を覗き込む。
すると、突然武は目を見開いてがばっと起き上がった。
そのまま、茜と武の顔は急接近。
『ごちっ!』と、痛そうな音がした。
『いたたたたたた………』
 額を押さえて蹲った二人の声が、見事にハモる。
「いきなり何よぉ、もう………」
 涙を浮かべながら、茜は恨めしげな視線を武に向ける。
「何って…なんか背筋にゾクってするもんが走ったから……」
 どうやら茜は早くも、武に本能的危機感を抱かせる存在として刷り込まれたらしい。
「な、何よそれ!それじゃあ、まるであたしがすっごく物騒みたいじゃないっ!」
「実際そうだろうがっ!俺にした事の数々、忘れたとは言わせんぞっ!」
 結局いつものように、怒鳴り合いになってしまった。
「大体お前、何してたんだよっ!?」
「そ、それはっ……!」
 今この展開で謝りに来たなどとは言えず、茜は思わず言葉に詰まる。
その瞬間。『ぐぅ…』と、二人の腹の虫が、同時に空腹を訴えていた。
『……………』
 沈黙して、思わず顔を見合わせる二人。
「…ま、とりあえず、飯にすっか。」
「…うん、そだね……」
 武の提案に、茜も頷いた。


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