所謂恋愛喜劇-2
学校。なんとかホームルームに間に合った茜は、窓の外を見つめながら担任教師の話を聞き流していた。いつも話す仲良しグループの女子二人は、まだ来ていない。
「あの男のコ…大丈夫かな……救急車くらい呼べば良かったかも……」
そんな事を考えながら、空に流れる雲を見つめぼうっとする茜。
そして、ホームルームも終わりに差し掛かった頃。
「え〜…それではこのクラスにやってくる事になった転校生を紹介する。」
教師が、さらりと言った。
『おいおい、美人だといいなぁ!?』『カッコイイ男の子かなぁ…』
途端にざわめくクラス内。そのざわめきも、茜には届かない。
「それでは、入ってきなさい。」
注目が、教室の扉に集まった。
ガラ…と、扉が開く。見慣れない上履きが、目に入る。転校生ならではだ。
『ぉぉぉぉぉおおおおお!』
クラス全員の視線が、更に集中する。ざわめきも最高潮だ。
そして、転校生が教室にその姿を現した。
『……………』
転校生が現れるなり、静まり返る教室。
そんな中、転校生は松葉杖をつきながらゆっくりと壇上に登る。
「彼が転校生の、ツヅキ……タケル君だ。」
言いながら、教師は黒板に、チョークで転校生の名前を書く。
「都築、武です。ヨロシク。」
包帯であちこちを巻き、腕を吊った上に片足にギプスを巻いて松葉杖をついた転校生は、意外とよく通る声で、だが無愛想に自己紹介する。その声に、茜はふと我に返った。
そして、声のした方……壇上に目を向ける。…転校生と目が合った。
「あ、あんたはっっ!」「お、お前はっっ!」
二人は、ほぼ同時に叫んでいた。
「お〜、二人は知り合いか〜?丁度良い、藍沢の隣が空いてるから、ツヅキ君はそこの席に座ってくれ。それじゃ、ホームルーム終わり〜」
なんとも普通の調子で教師は言い、そのまま出て行く。大物だ。
ちなみに、藍沢とは茜の名字だ。
ヒョコ、ヒョコっと、転校生…いや、今朝茜とぶつかった男子こと武は、ゆっくりと茜に近づいてくる。その姿には、怒気が滲み出しているように感じる。
…何故こんな包帯グルグル処置をしたのに、ホームルームに間に合っているのか?
それはロマンスの神様にでも聞いていただきたい。
ともかく、そんな彼に話しかけようとする者は、皆無。
転校生がクラスの生徒に囲まれ、談笑するという恒例行事は、全く見られなかった。
「あ、あの……」
茜が、武に声をかける。だが武は、それを無視する。
ガタッ、と、武は乱暴に席へと腰を下ろした。
その途端、椅子は分解し、武は激しくひっくり返る。
「……だから言ったのに……」
気の毒そうに、茜が呟く。
「……………」
沈黙。
「判ってたんならとっとと言えよっ!!」
すぐさま起き上がった武が、茜に向かって怒鳴る。
松葉杖も要らぬそのパワーは大したものだ。
「言おうとしたけど、あんた…都築君が聞かなかったんでしょっ!」
「そりゃ今朝の事がありゃ、誰もお前の話なんぞ聞かんわっ!」
そこまで言って二人は睨み合い、見えない火花を散らす。
『ふんっっ!』
暫く見つめ…もとい睨み合った後、二人は思いっきり、顔を背けた。