気まぐれ彼女と弱気な僕A-1
黒と黄色のしましまを 駆け上って みなれた景色に会いに行く。隣の階段よりもっと早く着きたい
『走らない、コケルよ』
黒と黄色の吸い込まれていく先で彼女が冷静にいう
『解ってる』
一番上まで駆け足で登ったら 油断して足を滑らせた
『ほら、危ない』
彼女の手が俺の手を引く。口には不適な笑みを浮かべて
『‥ありがと』
素直に礼をいう。余裕綽々の彼女の手は驚くほど冷たい
『いえいえ。‥すん――――ごい待った』
突然の呼び出しに元々提示された時間より1時間遅れてしまった。先にそれ位遅れる事は伝えたにも関わらず比奈子の手はその1時間まるまるここで待っていたみたいにかじかんで冷たい
『ごめん』
『いいよ。たまには』
繋がれた左手に軽く力が込められる
『ぢゃあ行こっか?』
手が繋がれただけで耳まで赤くなる 俺と対照的に 全く表情を変えない比奈子
利き手が塞がれるが別に嫌じゃない。前を歩く彼女は胸を張り颯爽としている。
歩く速度は、男女の違いとか身長の差もあって遅いんだけど、多分追い越さない方がいいんだろうと思った
彼女の後ろをゆっくりとついてく
比奈子は一度も振り向かない。何かに焦ってるみたいに
その背中を見ながらふと出会った時の事を考える
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長い間使ってるデジタルの腕時計が夜の12時を告げた頃、俺は宛もなくフラフラと家からほどちかい駅の周辺を歩いていた。
駅といっても昼でもほとんどシャッターの閉まったガラガラの商店街とゲームセンターと本屋とコンビニがポツポツと距離を置いてあるだけの閑散とした場所ではあるが都心よりこの方が落ち着く
目的は特にない。眠れなかったから外に出た。体は重く酷く疲れている。最近不眠で無理に眠っても疲れが取れない。不調は顔にも表れ、目の下に黒々とクマを作る
何が原因か解らないが見かねた上司に有休の消化も兼ね、3日間休養を取るように言われた。
しかし目が冴えて休むどころか眠る事すらできない。
いつだって気を抜かないできたからこうやって休むのは何年ぶりだろうと思う。
常に自分を律し、当たり前のルールを真面目に守る。自分で考えるよりも言われた事に従った。
それで不都合が生じる事はなかったしそれが一番だと思って生きてきた