気まぐれ彼女と弱気な彼女(番外編)-1
―瞼を開ける
カーテン越しの淡い光を受けて青白い天井が視界に入る
起き抜けは身体のあちこちの感覚が朧気で不安だ。息を吐き出し新しい酸素を肺に入れる。
―静寂
起き上がろうとした刹那、服の裾を掴む彼女の指先に気づき口元が緩んだ
「おはよう」
口にした後、鼓膜を通る自分の声が酷く柔らかい事に気づき苦笑いする
彼女の顔は額にかかった髪が邪魔していて俺は少し震える指先で払いのけた。手を触れたら壊してしまいそうで怖かったから
寝息を立てる彼女の顔は穏やかで俺はもう少し近くで見たくてゆっくりと顔を近づける
「……好き」
近距離で囁いた言葉は肌寒い朝の透明な空気に混じって消えていく。それが何だか頼りなく心細くて口付けた。自分から、は初めて。
彼女に触れた唇から指先から桜色をした暖かな何かが広がっていく。耳元で鳴っているようにドクドクと心臓の音が近く、近く、聞こえる
その時、まるでおとぎ話の白雪姫みたいに 彼女がゆっくりと目を開けた
俺は悪い事をしたのが見つかって咎められるのを恐れる子供のように慌てて身体を離し取り繕うような笑顔を無理やりに作る
吸い込まれそうな大きな瞳と目が合う
その目に 映るのが 今だけでも 僕だけだというのは何だかとても特別で贅沢な事のように思える
「…おはよ。どうしたの？怖い夢でも、見た？」
「ううん」
「…そっか」
心配そうな彼女の顔を見ると何故だか嬉しくなってフッと力が抜ける。
違うんだよ、今、俺、ものすごく幸せなんだよ
そう言おうかとも思ったけどやめた
幼子をあやすように優しく抱きすくめられて、ゆっくりと 後頭部を撫でられる
その感覚が心地よかった
「大丈夫。もう怖くないよ」
ああ、何かいいな、て思った
だけど言わない。言ったらこの淡い幸せが逃げちゃいそうで。だから言わない
俺は、夢現の中、小さく頷いてありがとう、と呟いた。
fin