僕とあたしの海辺の事件慕 最終話「色褪せても大切な日々……」-4
「そうか。ふむ、それでは……美羽君のご両親のこともしっているのじゃな」
「はい。ミィ……じゃなかった、美羽さんのことはその、辛いと思います。けれど、その、自分に何ができるかって考えたとき、俺、じゃ無かった私はその、傍に居てあげることしかできなくて、それでも彼女を大切に……」
しどろもどろになりながら懸命に言葉を選ぶ様子には、見た目と裏腹な誠実さが現れてきており、いつの間にか含み笑いも途切れていた。
「そうか。ふむ、して美羽君もそうなんじゃな?」
「はい? あ、はい。そのフミ君がいてくれたから……あ、もちろんペンションで働かせてもらっているのはとてもありがたいですよ。お給料も良いし、おばあさまのお見舞いにいけますし……、でも、やっぱりそういうの、気持ちの上で頼れるフミ君がいてくれて嬉しいっていうか、ありがと、フミ君」
「どういたしまして、ミィ……」
「……それはもういいっつうの……」
再び見つめ合う二人を裂くのは一人やもめの理恵。小声で「あたしだって楓がいるもん」と呟いているのが哀愁を誘う。
「ふむ。そうじゃったか。なら良いのじゃよ。うむ、仲良きことは美しきかなというべきじゃの。はっはっはっは……」
相変わらずの高笑いで強引に締める久弥と、突然の祝福を受けて呆気に取られつつも手を取り合う美羽と文宏。
「えっと? まあ一件落着ってことよね?」
「うん。多分……」
とりあえず拍手でそれを祝福すると、目の前のカップルは照れくさそうに頭を掻いたり、頬を染め始める。
――そういえば、あたしもこんな感じだったかも?
今年の春を振り返ると思い出されること。真琴の無邪気な「一緒に帰ろう」から始まる恋人認定に、梓からの妙なライバル意識。周囲のからかいと瘤つき認定はあまり思い出したくない記憶。
――んでも、しっかりしてもらわなきゃね!
隣でコーンフレークをかき混ぜるそいつにはその自覚も無いらしく、ただ無邪気に笑っているようにしか見えなかった。